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マドンナ「ウルトラ・マドンナ~グレイテスト・ヒッツ」について。

マドンナの初のベスト・アルバム「ウルトラ・マドンナ~グレイテスト・ヒッツ」がリリースされたのは、1990年11月9日のことであった。ひじょうにインパクトのある邦題で、内容を上手くあらわしてもいるのだが、原題は「The Immaculate Collection」で、キリスト教の「The Immaculate Conception(無原罪の御宿り)」をもじったものであった。マドンナは1989年にリリースした「ライク・ア・プレイヤー」が宗教的なイメージをモチーフにしていたりで、物議を醸したりもしていた。

東京ではこの年の9月22日に新宿のマルイ地下にヴァージン・メガストア、11月16日に渋谷センター街のONE-OH-NINEにHMVが日本での1号店をオープンしていた。「ウルトラ・マドンナ~グレイテスト・ヒッツ」は新宿のヴァージン・メガストアで買った記憶がある。店内にDJブースやヴァージン・コーラの自動販売機などがあり、ピーター・バラカンがCDをたくさん買っているところを見たこともあった。

「ウルトラ・マドンナ~グレイテスト・ヒッツ」にはマドンナがそれまでにリリースしたヒット曲15曲と新曲が2曲の計17曲が収録されていたのだが、マドンナのヒット曲はそれですべてではなかった。マドンナはこれ以降にもたくさんの楽曲をヒットさせたし、より包括的なベスト・アルバムも後に発売されたのだが、1983年のデビュー・アルバムから約7年間のヒット曲をほぼ時系列で収録したこのアルバムには、また特別な価値があるようにも思える。

このアルバムの特徴はただ既存の音源からセレクトしたものを集めているわけではなく、当時の最新技術だったというQサウンドに対応すべくリミックスが施されていたり、CDに収録できる時間内になるべく多くの楽曲を収録するためにオリジナルから編集されている曲があったりもする。

当時、ものすごく売れて全英アルバム・チャートではすぐに1位になったのだが、全米アルバム・チャートでは最高2位止まりであった。1位になることを阻んでいたのは、「アイス・アイス・ベイビー」をヒットさせたラッパー、ヴァニラ・アイスのデビュー・アルバム「ヴァニラ・アイス」であった。

せっかくなので、このアルバムに収録された17曲を簡単に振り返っていきたい。

1. Holiday

マドンナのデビュー・シングル「エヴリバディ」とその次の「バーニング・アップ」はいずれも全米シングル・チャートにランクインせず、「ホリデイ」が初のヒット曲となった。全米シングル・チャートでの最高位は16位であった。当時はマドンナのアーティストとしてのイメージは一般大衆的にまだ定着してはいなく、ダンス・ポップを歌う匿名的なシンガーとしてしか認知されていなかったような気もする。

2. Lucky Star

デビュー・アルバム「バーニング・アップ(原題は「Madonna」)」がリリースされたのは1983年だったが、シングル・カットされたこの曲は翌年になってからヒットした。時系列では「ウルトラ・マドンナ~グレイテスト・ヒッツ」でこの次に収録されている「ボーダーライン」の方が先にヒットして最高10位、この曲が最高4位でさらに順位を上げた。次のアルバムからの先行シングル「ライク・ア・ヴァージン」がリリースされる少し前までヒットしていた。

3. Borderline

初めてのヒット曲「ホリデイ」が全米シングル・チャートで最高16位を記録した後、この曲がヒットして最高10位と初のトップ10入りを果たした。

4. Like A Virgin

「ホリデイ」「ボーダーライン」「ラッキー・スター」がヒットした後にリリースされたこの新曲はナイル・ロジャーズのプロデュースで、一気にメジャー感が増したような印象があった。全米シングル・チャートで初の1位を記録し、一気にポップ・アイコン化していった。

5. Material Girl

2作目のアルバム「ライク・ア・ヴァージン」からシングル・カットされ、全米シングル・チャートで最高2位のヒットを記録した。80年代半ばの物質主義的な世相にもうまくハマっていたような気もする。ミュージック・ビデオはマリリン・モンローへのオマージュにもなっている。

6. Crazy For You

映画「ビジョン・クエスト/青春の賭け」のサウンドトラックからシングル・カットされ、全米シングル・チャートで「ライク・ア・ヴァージン」に続く2曲目の1位を記録した。ダンス・ポップのイメージが強かったマドンナだが、この曲のヒットでバラードもいけることを証明した。

7. Into The Groove

映画「マドンナのスーザンを探して」の主題歌で、アメリカでは「ライク・ア・ヴァージン」からシングル・カットされた「エンジェル」のB面だったが、イギリスではシングル・チャートで初の1位を記録した。

8. Live To Tell

「ライク・ア・ヴァージン」のアルバムからは「エンジェル」「ドレス・ユー・アップ」がシングル・カットされ、いずれも全米シングル・チャートで最高5位を記録したが、「ウルトラ・マドンナ~グレイテスト・ヒッツ」には収録されていない。そして、映画「ロンリー・ブラッド」の主題歌であり、3作目のアルバム「トゥルー・ブルー」からの先行シングルとしてリリースされた「リヴ・トゥ・テル」はまたしてもバラードで、全米シングル・チャートで1位に輝いた。

9. Papa Don’t Preach

これもまたアルバム「トゥルー・ブルー」からの先行シングルで、未婚、未成年での妊娠や娘と父の関係性がテーマになっている。全米シングル・チャートでは、マドンナにとって4曲目となる1位に輝いた。

10. Open Your Heart

「トゥルー・ブルー」からはタイトルトラックがシングル・カットされ、最高3位を記録するが、「ウルトラ・マドンナ~グレイテスト・ヒッツ」には収録されていなく、その次にカットされたのがこの「オープン・ユア・ハート」である。全米シングル・チャートで、6曲目の1位に輝いた。

11. La Isla Bonita

「トゥルー・ブルー」から5枚目のシングルとしてカットされ、全米シングル・チャートで最高4位を記録したのが「ラ・イスラ・ボニータ」である。ラテン音楽からの影響が感じられるこの曲は、全英シングル・チャートでは1位に輝いている。

この後、映画「フーズ・ザット・ガール」の主題歌が1987年にリリースされ、全米シングル・チャートで1位を記録しているのだが、「ウルトラ・マドンナ~グレイテスト・ヒッツ」には収録されていない。1988年はマドンナのシングルがリリースされなかった年だが、日本ではリミックス・アルバム「ユー・キャン・ダンス」から「スポットライト」が独自にリリースされていた。この曲もまた、「ウルトラ・マドンナ~グレイテスト・ヒッツ」には収録されていない。

12. Like A Prayer

1989年にリリースされたマドンナにとって4作目のオリジナルアルバム「ライク・ア・プレイヤー」のタイトルトラックにして先行シングルであり、全米シングル・チャートで1位に輝いた。ゴスペル音楽からの影響が感じられ、宗教的なイメージがモチーフになっている。

13. Express Yourself

「ライク・ア・プレイヤー」からシングル・カットされ、全米シングル・チャートで最高2位を記録した。セルフ・エンパワーメントでジェンダー・イコーリティ的なメッセージ・ソングでもあり、時代を先取っていたようにも感じられる。

14. Cherish

「ライク・ア・プレイヤー」から3枚目のシングルとしてカットされ、全米シングル・チャートで最高2位を記録した。同じアルバムからシングル・カットされた曲の中ではライト感覚のピュアでポップなラヴ・ソングであり、そこが逆にフレッシュに感じられた。

「ライク・ア・プレイヤー」からは「オー・ファーザー」「キープ・イット・トゥゲザー」もシングル・カットされ、全米シングル・チャートでそれぞれ最高20位と8位を記録したが、「ウルトラ・マドンナ~グレイテスト・ヒッツ」にはいずれも収録されていない。

15. Vogue

当時、流行していたハウス・ミュージックを取り入れた1990年のシングルで、全米シングル・チャートで1位に輝いた。ダンス・ミュージック界の有名プロデューサー、シェップ・ペティボーンがプロデュースしていることでも話題になった。アンダーグラウンドなサブカルチャーであったヴォーギングをテーマにし、歌詞には黄金時代のハリウッド・スターたちの名前も登場する。ディック・トレイシーと共演した映画「ディック・トレイシー」に関連したアルバム「アイム・ブレスレス」にも収録された。このアルバムからは「ハンキー・パンキー」もシングル・カットされ、全米シングル・チャートで最高10位を記録したが、「ウルトラ・マドンナ~グレイテスト・ヒッツ」には収録されていない。

16. Justify My Love

「ウルトラ・マドンナ~グレイテスト・ヒッツ」に収録された新曲のうちの1曲で、シングル・カットされ、全米シングル・チャートで1位に輝いた。レニー・クラヴィッツが作曲、プロデュースでかかわったことでも話題になった。ミュージックビデオはセクシーすぎて放送禁止になったりもしていたが、官能的なイメージは1992年のアルバム「エロティカ」にもつながっていく。

17. Rescue Me

「ウルトラ・マドンナ~グレイテスト・ヒッツ」の最後に収録されたシェップ・ペティボーンとの共作曲で、当初はシングル・カットの予定がなかったようなのだが、結局はカットされ、全米シングル・チャートで最高9位を記録した。

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