ABBAの曲ベスト10
先日、ABBAが約39年ぶりとなる新曲をリリースしたことが話題になっていたわけだが、なんと1981年の「ザ・ヴィジターズ」以来となるオリジナルアルバムまで出してしまうというのだからすごいことである。
ところでこのABBAというポップ・ミュージック史上ひじょうに重要なポップ・グループがナウなヤングの方々にとってどのような印象をあたえているのかは定かではないし、日本のニュースサイトを見てみると「ABBA復活に中高年は歓喜!」などという見出しが記事に付けられていたりもする。
それにしても先日リリースされた新曲の「アイ・スティル・ハヴ・フェイス・イン・ユー」なのだが、さすがにボーカルに時の経過をやや感じはするものの、これぞABBA節とでもいうべきポップ感覚が宿っていて、やはりワン&オンリーな素晴らしいポップ・グループだなと感じずにはいられなかった。
とはいえ、私がモテようとして洋楽を意識的に聴きはじめた1980年ぐらいにおいて、ABBAはおそらく日本で最も売れている洋楽アーティストであった。その年のオリコン年間アルバムランキングを見ると、1位はイエロー・マジック・オーケストラの「ソリッド・ステイト・サバイバー」で2位が松山千春の「起承転結」、それで3位がABBAの「グレイテスト・ヒッツVol.2」となっている。それで、あまりにも流行りすぎていたこともあり、実はそれほどちゃんと聴いていない。
翌年には全米ヒット・チャートを追いはじめるわけだが、その頃にはABBAの曲はもう上位にランクインしなくなっていて、さらにその翌々年に活動を休止し、事実上の解散となったのだった。1982年にはメンバーのアンニ=フリッド・リングステッドがフリーダ名義でフィル・コリンズとヒュー・パジャムのプロデュースによる「アイ・ノウ・ゼアズ・サムシング・ゴーイグ・オン」をヒットさせ、当時のヒット・チャート好きとしてはこちらの印象の方が強かったのである。
とはいえ、90年代にベスト・アルバム「アバ・ゴールド」や、シンセ・ポップ・バンド、イレイジャーによるカバーEPが大ヒットしたりして、やはり偉大なポップ・グループなのだなという印象はその後もひじょうに強く、2005年にiTunesストアが日本でもオープンした時にはまだまだ曲がひじょうに少なくて、その中でも何か配信で買うという体験をしてみたくて、買っても損がないものを検討した結果、「ダンシング・クイーン」を購入したりしていた。
そして、今回、せっかくなので当時は流行りすぎていてあまりちゃんと聴いていなかったABBAの曲の中からベスト10を選んでみた。
10. Super Trouper (1980)
1980年にオリコン年間アルバムランキングで3位にランクインしたABBAの「グレイテスト・ヒッツVol.2」はその前の年にリリースされていたのだが、この曲はそれ以降、初のオリジナル・アルバム「スーパー・トゥルーパー」のタイトル・トラックである。ABBAはスウェーデンの男女4人組グループで、一時期は2組の夫婦によって構成されていた。親しみやすい楽曲と共に、そういったファミリーの平和的なムードも人気の一因だったような気がする。当時、スウェーデンのアーティストが英語圏の国々でブレイクすることは、まだ珍しかったのだという。この曲はイギリスのシングル・チャートにおいて、通算9曲目で最後の1位獲得曲となった。日本のラジオでも人気グループの新曲として、よくかかっていた印象がある。本来のキャッチーさは保ちつつも、ニュー・ウェイヴ時代にも対応しうるポップ感覚が感じられてとても良い。
9. Fernand (1976)
元々はソロ曲だったものを、メンバー全員でレコーディングしたようだ。邦題が「悲しきフェルナンド」であるように、失恋について歌われているようだ。どこか異国情緒も感じられる良い感じの出だしから、コーラスに入ると一気にキャッチーになるが、切なさがずっと感じられもしてかなり良い。
8. Take A Chance On Me (1978)
この曲はアメリカでもトップ10入りした、とてもキャッチーで親しみやすい曲である。イントロのアカペラコーラスから、オフコース「眠れぬ夜」からブラー「ガールズ・アンド・ボーイズ」あたりまでをも思わせるキーボードのフレーズ、それ以降はマイルドなディスコ感覚も感じられる。ビー・ジーズ「サタデー・ナイト・フィーバー」やブロンディ「ハート・オブ・グラス」とほぼ同時代のヒット曲と考えると、とても納得がいく。
7. Gimme! Gimme! Gimme! (A Man After Midnight) (1979)
マドンナ「ハング・アップ」にイントロがサンプリングされていた曲。ドナ・サマー「ホット・スタッフ」、ロッド・スチュワート「アイム・セクシー」などと同様に、この曲も日本のラジオでよく流れていて、オリコン週間シングルランキング最高17位は、ABBAの全シングル中の最高位である。やはり、ディスコやニュー・ウェイヴの時代にサウンド面では対応しながらも、ポップ感覚は正しくキープされている。
6. Mamma Mia (1975)
ABBAの楽曲をフィーチャーしてヒットしたミュージカル、及びロマンティック・コメディのタイトルにもなった曲。世界的大ブレイク前夜ともいえる時期にリリースされた楽曲だが、ディスコ・ブームの影響をまだ受けていないピュア・ポップ的な良さがひじょうに感じられる。
5. Waterloo (1974)
ABBAのメンバーはそれ以前からスウェーデン国内である程度のキャリアを積んでいたということなのだが、世界的に最初にヒットしたのがこの曲らしい。邦題は「恋のウォータールー」で、ピアノとサックスも最高なご陽気なノリがとても良い感じである。そして、菊池桃子の「Say Yes!」のメロディーがもしかするとこの曲に少し似ているのではないかと、いまさら感じたりもしたのだった。
4. Knowing Me, Knowing Me (1977)
1977年といえばパンク・ロックがロンドンで大いに盛り上がり、私個人的には小学5年で旭川に引越し、都会志向が一気に強まった年である。それはそうとして、この曲は全英シングル・チャートで4曲目の1位に輝いていた。「ノウイング・ミー、ノウイング・ユー」と歌われた後の「アハーン」というようなボーカル、その後のギターの演奏などがとても良い。私を知っていて、あなたを知っているという曲ではあるが、これはRCサクセションの超名曲「君が僕を知ってる」とは違って、悲しいお別れの曲である。この曲がリリースされた当時は2組の夫婦によって成り立っていたABBAだが、その成功の代償的なところもあって、やがていずれも離婚することになることを考えると、なかなか感慨深くもある楽曲である。
3. SOS (1975)
日本で2001年に放送されたテレビドラマ「ストロベリー・オンザ・ショートケーキ」では、オープニングテーマにABBAの「チキチータ」、エンディングにこの曲が使用されていて、この年にリリースされたベスト・アルバム「SOS~ベスト・オブ・アバ」はオリコン週間アルバムランキングで最高3位のヒットを記録した。まさに時代と国境を越えて支持されたということになるのだが、リリース当時にはオーストラリアとニュージーランドのシングル・チャートで1位に輝いている。確かなものであるかのように思えた愛が深刻な危機に瀕している様が歌われていて、ヴァースからコーラスにかけての展開がそういった不安定な心情をヴィヴィッドに再現しているようにも感じられて素晴らしい。
2. The Winner Takes It All (1980)
ヒット曲を連発し、世界的人気ポップ・グループとなったABBAではあったのだが、その代償でもあったのだろうか、メンバー間の人間関係は次第に悪化していき、最終的に2組の夫婦は離婚に至ってしまう。この曲にはそういったビターな現実が反映されているのだが、その分、深みのある大人のポップスにもなっている。ABBAの後期にはこのような状況を反映してか、こういったタイプの楽曲もひじょうに多く、味わい深くもあるわけだが、今回、このベスト10を選ぶにあたっては、やはり私が個人的にこのグループの最大の魅力だと感じている親しみやすくてキャッチーな曲が俄然、強めになってしまった。
1. Dancing Queen (1976)
そして、1位はやはりこの曲である。アメリカのシングル・チャートでも1位になったのはこの曲だけなのだが、これぞピュア・ポップとでもいうべき、欠点のまったくない素晴らしい楽曲である。ABBAの最大の魅力である卓越したポップ感覚に加え、ディスコ・ブームという旬なトレンドに乗っかった感じが凄まじく良い。イントロが鳴った瞬間の景色が一気に変わってしまうような感じと、歌いだしの歌詞も最高で、「You can dance, you can jive」に続いて、「having the time of your life」というのがたまらない。これは人生の最高の時について歌われた曲であり、そのポップスとしての圧倒的なクオリティーによって、聴く者もそれを追体験しているかのような気分を味わうことができる。ポップ・ミュージックの機能の一つとして、絶望的であるかもしれない最低な現実をたとえそれを聴いているだけでも忘れることができる、というのがあるように思えるのだが、この曲にはそれを実現するだけの強度が備わっているように思える。個人的に「チキチータ」「ヴーレ・ヴー」などにはリアルタイムで親しんでいたポップスとしての思い入れもあるのだが(「サマー・ナイト・シティ」についても)、それらを圏外にせざるを得ないほど、ABBAには良い曲がたくさんあることを、改めて思い知らされた。あと、「ザ・デイ・ビフォー・ユー・ケイム」「ワン・オブ・アス」といった後期の名曲が入れられなかったのも心のこりではあるのだが、ABBAの楽曲でベスト10というとやはり個人的にはこうなってしまうのかな、という気分ではある。