「M-1グランプリ2020」準決勝戦について。
今年は「M-1グランプリ」というかお笑いのこと自体ほとんどここで取り上げていないのだが、だからといって完全に飽きてしまったというわけではまったく無く、YouTubeやGyaOで配信されている予選動画数百本も、個人的にどうしても苦手なコンビのもの以外はすべて観るという毎年恒例的なことも相変わらずやっている。
とはいえ、個人的に今年は良いのではないかと思っていたDr.ハインリッヒ、ツートライブ、ももなどが準々決勝戦で敗退し、準決勝の時点で残っている26組には好きなコンビはまあまあいるものの、それほど強い熱量は持てずにいたのだった。とはいえ、おそらく納得の審査結果なのだろうな、ということはなんとなく感じた。準々決勝戦においては、敗退した組の動画のみが公開されていて、準決勝戦に進出した組の動画は公開されていないのだが、それが準決勝戦を観るモチベーションにも繋がる。
昨年と同様に全国の映画館でライブビューイングも行われるということで、昨年と自分自身を取り巻く環境は変わっているのだが、結局、同じイオンシネマ多摩センターで観ることにした。新型コロナウィルス対策で観客数を全席の半分しか入れないという点もやや安心できる。昨年は場所が良く分からず、開演時刻近くまで迷いまくったのだが、今年はもう平気である。多摩センターはサンリオピューロランドが近く、駅にもサンリオのキャラクターがたくさん描かれていたりしてテンションが上がるのだが、この季節はイルミネーションも綺麗なのでさらに良い。イオンシネマ多摩センターは大きな光のクリスマスツリーとでもいうべきものの、すぐ近くにあった。
若い人たちはもうお笑いをあまり見なくなってしまったのではないかとなんとなく思っていたのだが、この日の客層を見るとそんなことはないと感じられた。ライブビューイングは全国的に大好評らしく、チケットも売り切れているところがかなりあったという。準決勝戦は配信されないというのが一つの売りでもあったのだが、当日になって結局、配信が行われることが決まったようだ。家でも観られたじゃないかという気分にもなったのだが、映画館の大きなスクリーンで観るのも良いものだ、と強く思うようにしたし、実際にそうだった。
準決勝戦に出場する26組の中から、とりあえずこれまでに観た予選動画だとか他の機会に観たネタだとかインターネットで見た評判だとか個人的な好みなどを総合し、この9組が決勝進出することが望ましいのではないか、というようなことは念のためにやっていて、そういったタイプのアンケートの投票したりもした。
実際にネタを観た後で、事前にこの9組が決勝進出すると良いのではないかと思っていたうちの6組は期待通りか以上であり、3組がそうでもなく、1組はまったく期待していなかったのだがこれは決勝進出するべきではないかと思えた。そして、あと2組を残りの組から選んだのだが、これがコウテイとタイムキーパーで、いずれも決勝進出はならなかった。
タイムキーパーは大阪吉本の結成2年で、この短い芸歴での準決勝進出は快挙であり、決勝進出が最も予想されていなかった組ではないだろうか。しかし、構成がしっかりしていて技術も高く、おそらくほとんど知られていなかったであろうにもかかわらず、イオンシネマ多摩センターで観ていた人たちもわりと笑っていた。
ちなみにいまさらだが、ネタの内容についてはSNSでは書かないようにと強く言われ、それはブログでも同じことだと思われるため、もちろんネタの内容については書かないのだが、ライブビューイングの感想だけをなんとなく書いていくだけの回である。
コウテイはハイテンションのキャラクターとギャグに頼ったコンビと思われがちなのだが、実はわりと奥深さもあるという事実はなんとなく共有されはじめているようにも思える。ダイアンのラジオ番組にゲスト出演した回などを聴くと、ディープなお笑いファンであり、笑い飯、千鳥などに憧れてお笑いをはじめたことなども分かって、個人的にはかなり高感度が上がった。
司会のはりけ~んずがギャグマンガのような漫才というようなことを言っていたような気がするが、まさにその通りだと感じた。それと、はりけ~んずの司会は「M-1グランプリ」の風物詩的なムードをかなり高めているということも再認識させられた。
個人的に「M-1グランプリ」では話芸のようなものを堪能したいというようなことも思いがちであり、そこへいくとコウテイの芸風などは「M-1グランプリ」で観たいものとは少し違うような気もするものの、この熱量とスピード感にはそれを凌駕して余りあるものがあった。
もともとこの9組が良いのではないかという中には入れていなかったのだが、実際にこの日のネタを観て、これはぜひ決勝進出するべきだろうと強く感じたのが、自分自身でもひじょうに意外なことにウエストランドであった。モテない男の鬱憤をぶちまけるというタイプの芸風は個人的な好みではまったくないのだが、その熱量にたまらなく良いものを感じた。とはいえ、そこそこ知名度もあり、「M-1グランプリ」が決勝に挙げたいと思いがちなタイプとは少し違うような気もして、個人的には今回、ぜひ決勝進出するべきだとは思うのだが、実際にはそうならないだろうと思っていた。しかし、決勝進出者発表の最後にコンビ名が呼ばれ、審査の順当さを思い知ったのであった。
ウエストランドが呼ばれる前に、錦鯉、東京ホテイソンと、吉本興業所属以外のコンビがすでに2組、決勝進出者として呼ばれていた。吉本興業以外の事務所のことを、お笑いファンの一部は他事務所と呼ぶ傾向があり、吉本興業が主催する「M-1グランプリ」でそれ以外の事務所の芸人が決勝進出する枠のことを「他事務所枠」などと呼んだりもする。それがここ4年は、2016年、2017年がカミナリ、2018年がトム・ブラウン、2019年のぺこぱと各年1組ずつしか選ばれていない。「他事務所枠」は1組分しかないのではないかとか、いやいや順当に選んだ結果、所属芸人の総数がそもそも多い吉本興業の芸人がほとんどになってしまうのだ、というような意見が飛び交ってもいたのだった。
ところが、今年は決勝進出の9組中、3分の1にあたる3組がいわゆる他事務所の芸人ということで、「他事務所枠」は1組と決まっているなどということは、まったく無かったのだということが証明された。しかも、昨年唯一の他事務所からの決勝進出で、それをきっかけに大ブレイクを果たしたぺこぱは敗退している。今回、決勝進出したいわゆる他事務所の3組は、いずれも本当にウケていたのである。
また、12月20日の決勝戦当日、準決勝で敗退したうちからワイルドカードで勝ち上がったラランドを除く16組が敗者復活戦を争うことになる。これはテレビの視聴者投票という性格上、ネタのクオリティーというよりは人気投票的になりがちな傾向もある。となると、今年でいうと最もテレビの一般的な視聴者に人気がありそうなのは、ぺこぱではないだろうか。もしそうなった場合、決勝の10組中4組が他事務所ということになる。
「M-1グランプリ」の歴史をたどると、2007年にサンドウィッチマン、2008年にオードリーと、いずれも他事務所のコンビが敗者復活戦を勝ち上がり、それぞれ優勝、準優勝という結果を残している。翌年からNON STYLE、パンクブーブーと前年に優勝したコンビが再挑戦し、準決勝で敗退するが敗者復活戦で勝ち上がるというパターンが続いた。一部のお笑いファンの間では、これは他事務所の芸人が敗者復活で上がって来ないようにするためではないか、というような陰謀論めいたことが囁かれたりもした。
また、2010年を最後に「M-1グランプリ」は一旦、終了し、2015年に復活するのだが、そこでは準決勝戦でウケていて人気もありそうな、トレンディエンジェル、和牛、スーパーマラドーナ、ミキ、そして、また和牛といういずれも吉本興業所属のコンビが準決勝戦で敗退し、敗者復活戦で勝ち上がってくるということもあった。これにもまた、他事務所の芸人を敗者復活戦で勝ち上がらせないようにわざとやっているのではないか、というような陰謀論めいた声があったり無かったりした。今年の審査結果は、これをもまた払拭するものになったような気がする。
おいでやすこがは、ピン芸人のおいでやす小田とこがけんとのコンビである。このようなピン芸人同士のユニットコンビのようなものは、過去にも「M-1グランプリ」に多数、出場しているが、話題にはなるものの決勝進出までいくことは一度も無かった。おいでやす小田は一人芸日本一を決める「R1ぐらんぷり」に5年連続で決勝進出する実力者だが、先日、ネーミングが「R1グランプリ」に変更されると同時に、出場資格が芸歴10年までに限定されることが発表された。これと同時においでやす小田は出場資格を失い、この話題絡みで松本人志がMCを務める日曜のバラエティー番組「ワイドナショー」に出演、そのチャンスをしっかりものにしたばかりである。
おいでやす小田とコンビを組むこがけんもまた、「R1ぐらんぷり」決勝進出の経験を持つが、今回、出場資格を失った。このコンビが「M-1グランプリ2020」で決勝進出したのには話題づくりという側面もあttのではないか、もしも準決勝戦を観ていなかったとするならば、私もそのような見方をしていたかもしれない。しかし、この日のトップレベルではないかというほどにウケていたし、おいでやす小田、こがけん、それぞれの特性が生かされた上で化学反応も生んでいるようなネタは素直におもしろい。そして、ここでも熱量である。これが、コロナ禍のご時代が求める笑いなのかもしれない。決勝進出発表記者会見でもそうだったのだが、いまやおいでやす小田が大声でブ切れているだけでおもしろい、というような感じにすらなっている。
熱量でいうと、マヂカルラブリーにもすさまじいものがあった。そもそも、いわゆる話芸とは別ベクトルのオリジナリティーの高い芸風だが、それをアートの域にまで高めつつあるというか、とてつもないエネルギーを感じた。同じブロックではゆにばーすも個人的にはとても良いと思ったのだが、決勝進出はならなかった。
昨年に続いての決勝進出は見取り図、ニューヨーク、オズワルドの3組だが、それぞれ昨年よりも確実におもしろくなっているのではないか、というような印象を受けた。あとは、アキナがぬるっと決勝進出していた。モーニング娘。’20のえりぽんこと生田衣梨奈は、いまでもアキナが好きなのだろうか。
というわけで、12月20日の決勝戦が今年もまた楽しみなのである。去年のミルクボーイのように、この段階ですでにこの組にできれば優勝してほしいというのはいまのところ無いのだが、純粋におもしろいと思っているのはおいでやすこがで、これは一体どうなのだろうかというような気もする。
昨年は準決勝戦の上映が終わってから外に出て、スマートフォンで決勝進出者を確認したのだが、今年はここまで映画館で観ることができたのでさらに良かった。すべて終わって外に出ると、私の前を一人で観に来ていた若い女性が歩いていて、友人に電話をかけていた。「結果、見た?錦鯉、決勝進出したよ」などと言っていて、いま錦鯉というのはこういう存在でもあるのか、というようなことを思わされた。
多摩センター駅前の大きなハローキティがなぜかしぼんでいたのだが、あれは一体、何だったのだろうか。
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