「オールザッツ漫才2020」について。

MBSテレビで毎年、12月29日の深夜から翌朝にかけて放送されているお笑いバラエティー番組「オールザッツ漫才」が、2020年にも例年と同様の時間帯に生放送された。今年も関東のテレビ局でのネット放送は無く、たとえば東京などに住んでいた場合、リアルタイムで視聴することはできなかった。しかし、「MBS動画イズム」というインターネットサービスが2018年から配信サービスを行っているため、今回も2021年1月16日16:59までは見逃し配信として、無料で観ることができるようである。そして、2018年、2019年と同じであるならば、それ以降も有料会員になれば視聴できる可能性はある。

以前はこの番組を観るために新幹線や飛行機で大阪に行き、ホテルに宿泊することもあったのだが、リアルタイム視聴にこだわらない限り、その必要もなく観ることができるのはとてもありがたい。

この番組のフォーマットは年によって微妙に変わったりもするのだが、事前に発表されていた情報を見る限り、今回はネタ、バトル、コーナーに分かれた、個人的に最もしっくりくるパターンのような気がした。司会は2018年から3年連続で、和牛、アキナ、アインシュタインの3組が務める。それ以前が小藪一豊、千原ジュニアだったので、かなりの若返りが図られたことになる。

「オールザッツ漫才」は年によって若干の違いはあるものの、基本的に大阪吉本の笑いのホットで勢いがあるところを抽出した番組という印象がひじょうに強い。baseよしもとや5upよしもとといった劇場を支えた芸人たちが次々と東京進出したりしている現状、この若返りは必然なようにも思われる。そして、1990年に第1回が放送された「オールザッツ漫才」は、そのような新陳代謝を繰り返し、今日まで続いているのであった。

事前に発表されていた出演者を観て、ネタ組には若手実力派が揃っているな、という印象を受けた。少し前であればバトル組にいたのではないかと思えるような芸歴の芸人も、ネタ組に入っていたりする。バトル組の顔ぶれもひじょうにフレッシュだと思われたが、これは250組の中から選ばれた18組なのだという。また、2019年のバトルで優勝した令和喜多みな実、そして、2年連続で準優勝のからし蓮根がコーナーには出演することになっているが、ネタ組にもバトル組にも入っていない。そして、キャリアを重ねた芸人が次々とこの番組を卒業していく中、浅越ゴエ、藤崎マーケットの存在はひじょうに心強い。また、同じくコーナーのみの出演者として、ゆりやんレトリィバァ、天才ピアニストますみ、ギャロップ林の名前が挙げられている。

12月30日の午後5時ぐらいから「MBS動画イズム」で配信が開始されたので、たこ焼きをはじめ、なんとなく大阪っぽいものを食べたりしながら、一気に視聴をした。以下、その感想のようなものなどをなんとなく記録していきたい。

オープニングは2020年を代表する大ヒットとなったテレビアニメ「鬼滅の刃」のパロディーでスタート、アキナの秋山がカラス役であった。ロゴやCGなど、ムダに手間がかかっているところも素晴らしい。現在のアキナに対し、「M-1、お疲れさまでした」と言うのは攻撃として機能するのだ、ということが分かった。藤崎マーケットがアクセントとしてとても重要な役割を果たしている。そして、和牛の水田がとても良い声で「紅蓮華」を歌う。

番組の司会に和牛、アキナ、アインシュタインの他に、MBSアナウンサーの藤林温子が出演するようである。

新型コロナウィルス感染拡大防止のため、今回は観覧者の募集が行われなかったようだ。その代わり、バトルの採点を視聴者がTwitterで行うことができる。客席には芸人たちがソーシャルディスタンスを保って、ゆったりと座っている。バトルはまた別の会場で行われているようである。客席にオールザッツスペシャルサポーターと呼ばれる人々や、Re:Complexというユニットのようなもののメンバーなどもいる。ゆりやんレトリィバァは「女芸人No.1決定戦 THE W 2020」でAマッソとの対戦に勝利したことで、毎日、叩かれ続けているという。

ネタのコーナーは「深夜のぶっ込みLIVE」と題されて、賞レースファイナリストクラスの芸人たちが「オールザッツ漫才」ならではのネタを披露するというコンセプトらしい。普段通りのネタをやる組もいれば、「オールザッツ漫才」にカスタマイズしたネタを用意してくる組もいる。

トップバッターの見取り図はネタ番組か賞レースの予選で観たことがあるネタをやっていたが、途中で掛け合いがなければ正統派漫才ではないと言われる、というようなアドリブのようなものを入れていた。続いて、「M-1グランプリ2020」で準決勝戦にまで進出し、敗者復活戦への出場権もあったにもかかわらず、新型コロナウィルスによって出場することができなかった祇園である。スター性や貫禄のようなものもついてきて、安定感も抜群なのだが、織田裕二というフックで最後まで押すという「オールザッツ漫才」に適したテイストが感じられるネタなのもとても良かった。ラニーノーズは「オールザッツ漫才」をテーマにしたなんとなく良い曲をただ歌い切るというネタで、客席で冷めた表情をあえてしているコウテイやセルライトスパ大須賀をも含めた団体芸のようなところも感じられた。

CM前に特定の芸人がやりたいと思うことをただやるという「オールザッツアンケート」のコーナーは、この年もある。ゆりやんレトリィバァはいまや全国区のひじょうにメジャーな若手芸人ではあるのだが、とてもニッチでマニアックな部分が「オールザッツ漫才」との親和性がひじょうに高いところである。数年前の「エアうなぎ」は秀逸だったが、今回は「エア水中脱出」で、藤崎マーケットのトキと共演である。くだらなくて、最高に良かった。

バトルコーナーの正式タイトルは「オールザッツネタバトル」で、「お笑い第8世代のスターは誰だ?!」というコピーも付いている。お笑い第7世代というワードは、「M-1グランプリ2018」で優勝した霜降り明星のせいやが有名にしたものだが、その前年、2017年の「オールザッツ漫才」で最も活躍が目立ったのは、この霜降り明星のせいやと中山きんにくんであった。一方、粗品は霜降り明星を結成する以前、「オールザッツ漫才2012」において、19歳にしてバトルコーナーで優勝を果たしている。

フースーヤは勢いのあるギャグ祭り的な独特の漫才で136点、マユリカがお婆ちゃんに居酒屋のキャッチが声をかけるコントで135点、ツートライブはお得意のイキり漫才だがなぜか緊張して手が冷たくなり台詞を噛んだりもして124点、放課後ボーイズの見たことある写真のネタは面白かったのだが、視聴者からの得点がなぜか著しく低く93点であった。

「オールザッツアンケート」は令和喜多みな実・野村で、「いろんな人で楽屋挨拶したい」というものである。様々な芸人や吉本の劇場の近くにある信濃そばの店員といった「オールザッツ漫才」らしい楽屋ネタに器用さが光っていた。

「オールザッツバトル」は続き、吉本新喜劇からヤンシー&マリコンヌがソーシャルディスタンスについての歌ネタで158点、アキナの秋山から「ぬるっと終わるのやめて」という言葉が発せられていて感慨深かった。なぜなら、アキナといえば某「M-1グランプリ」を語る界隈では、「ぬるっと決勝進出」などと言われがちだったからである。ドーナツ・ピーナツの人の名前から偏見でタイプを割り出すネタは面白いと思ったのだが、意外に伸びず115点。ハイツ友の会は美容系YouTuberをテーマにしたいまどきの女性コンビらしいネタで140点。これがテレビでのネタ初披露だったらしい。今井らいぱちは数ヶ月前に解散したヒガシ逢ウサカの元メンバーで、この芸名を付けたのは見取り図の盛山らしい。「オールザッツ漫才」ではコンビ時代から笑い飯・哲夫の似ているものまねが好評だったのだが、ピン芸人として初出場となる今回は和牛・川西の似ているものまねで会場を爆笑に包んだ。スタジオが93点で視聴者が98点、合計190点という驚異的な特典を叩きだした。

ここで、「オールザッツ漫才」からアキナの秋山によって描かれたイラスト入りのTシャツとマスクが発売されることが発表された。

ピン芸人のキャツミは銃撃ショートコントで、なぜか脚を撃たれた衝撃でいろんなことをやってしまう人を演じて141点。個人的にはとても好きだった。ラフ次元は安定感がある漫才コンビとして、「M-1グランプリ2020」の予選のネタなどもとても好きなのだが、今回は知り合いの話として、吉本興業の先輩のエピソードを暴露する内輪ネタ的なもの111点。吉本新喜劇の岡田直子は「ザ・細かすぎて伝わらないモノマネ」で優勝したらしい女子の特徴をテーマにしたネタで169点。デルマパンゲは「まんが日本昔ばなし」のエンディングテーマ音源を実際に流しての漫才で共感も受けたのか164点。ネタの後では、カラフルな舞台セットを「アメリカの味の濃いガム」にたとえるセンスが光った。ダブルアートは賽銭泥棒をテーマにしたコントで、「オールザッツ漫才」らしい仕掛けに凝っているのだが、ひじょうにくだらないネタで会場は大爆笑、得点は154点であった。かつてのバトル上位常連、クロスバー直撃を思い起こしたりもした。賽銭泥棒をするようなタイプの人物の描写のリアルさ、小道具を用いたシュールな展開が心地よかった。

からし蓮根の伊織がアナウンサーと結婚したことはなんとなく知っていたのだが、その相手がこの日、「オールザッツ漫才」の司会を務めていた藤林温子であった。番組内で結婚披露宴を行うという企画が秘密裡に進行していたらしく、それが初めて発表された。

「深夜のぶっ込みネタLIVE」はまず紅しょうがで、いつものクオリティーの高い漫才だったのだが、ベランダからスーパーのライフが見えるというフレーズに、個人的にはシビれたのであった。吉田たちは「ふたごのひとりごと」という歌ネタで、これは何かで観たことがあったが、何だったかがうまく思い出せない。さや香は人形劇と小学生をテーマにしたコントで、確実にいろいろ積み上がっていることが確認できた。

結婚披露宴では司会が天才ピアニストますみ、神父がニッポンの社長のケツ、セルライトスパ大須賀はシュレックのメイクをしている。ゆりやんレトリィバァはがオルガン奏者として登場し、厳かに合唱がはじまるのだが、曲のチョイスがX JAPANの「紅」である。

「オールザッツネタバトル」は千鳥のものまねを得意とするメンバーを含む3人組、戦士がやはりそのタイプのネタで153年。ミャンマー住みます芸人だが新型コロナウィルスの影響で4月からは日本に住んでいてミャンマーに戻れていないという緑川まりがミャンマー語の早口言葉をテーマにしたネタで73点、武者武者は「頭文字D」をピンポイントでテーマにした、いかにも「オールザッツ漫才」らしいネタで、72点。ハマっていなかったが、個人的には「頭文字D」をほとんど知らないがかなり好きだった。「オールザッツ漫才」で「頭文字D」といえば、いつかの年にモンスターエンジン西森もロケ企画の中でやっていたような気がする。マイスイートメモリーズは飲酒検問と空手師範代をテーマにしたコントで138点。ピン芸人のあきぞうは、りゅうちぇるになり切ったネタで133点。これで、「オールザッツネタバトル」の1回戦が終了した。

結果発表の前に「深夜のぶっ込みネタLIVE」で、エンペラーは虫歯を見るために相手の口の中に入ろうとするが、注意されると動揺するタイプのユニークな漫才、ロングコートダディは学園コントなのだが、顔も出さなければセリフも無い、ギターとドラムスによって繰り広げられるそれ、という文章ではなかなか表現することが難しいものであった。

「オールザッツネタバトル」で準決勝に進出が決まったのは、今井らいぱち、岡田直子、デルマパンゲ、ヤンシー&マリコンヌ、ダブルアート、戦士の6組であった。

ここで、スタジオを一旦、空にして、喚起・除菌の時間である。その間に、浅越ゴエのロケ企画「浅越が行く」である。ゆりやんレトリィバァが演じる番組ディレクターのような人や、見取り図による南大阪のカスカップル、今井らいぱちによる野球部OBの竹下先輩、ニッポンの社長は与沢翼と広島カープの會澤翼捕手、「ショートバウンドした札束」というワードも登場、この浅越ゴエのロケ企画には過去にたくさんの名物キャラクターが登場したが、すでにもう出演しなくなってしまった。その中でも特に印象的だったのだが、ダイアンのユースケが演じた太秦での撮影の空き時間を潰している役者、岸大介であった。今年ももう出演はしていないのだが、浅越ゴエから「太秦の方」と言及があったのはうれしかった。ヘンダーソンの子安は最近の氷川きよし、アインシュタインの稲田はハダカデバネズミとして出演していた。

結婚披露宴会場では、やたらと上手いことを言いまくる司会者を演じた、令和喜多みな実の河野がひじょうに光っていた。さや香の石井がウェイターからフラッシュモブのダンサーなのかと思いきや、ただ一人で踊りまくっただけというのもなかなか良かった。藤崎マーケットのトキとアキナの秋山によって演じられたハイヒールも怒られそうで素晴らしかったのだが、出囃子のちゃんと布袋寅泰「C’MON EVERYBODY」を使うという細かさがまたとても良い。「オールザッツ漫才」が生んだ名物キャラクターの一つ、女キャッチャーとして守屋日和、セルライトスパの肥後はただただ歌が上手い。からし蓮根の青空とコウテイ下田による九州弁の友人挨拶にもまた、グルーヴィーな魅力を感じた。

藤崎マーケットの田崎はオープニングから「鬼滅の刃」のコスプレと顔芸でひじょうに目立っていたのだが、この頃にはシンプルな白いワイシャツのようなものを着て客席にいるところが映されていた。そして、エンディングではまた「鬼滅の刃」のコスプレと表情に戻っていたのだが、特にふれられていなかったような気がする。

「深夜のぶっ込みネタLIVE」で、ネイビーズアフロが国語の授業をテーマにした先生と生徒のコントだが、内容は楽屋ネタのようなものであった。ビスケットブラザーズは性犯罪をネタにしていた。

「オールザッツアンケート」でセルライトスパ大須賀が、エピソードトークをしながらバレないようにこっそり瓦を10枚割った。

「オールザッツネタバトル」準決勝戦は、戦士がやはり千鳥のものまねを取り入れたネタで119点、岡田直子が1回戦と同系統のネタで152点、デルマパンゲが「まんが日本昔ばなし」の今度はオープニングテーマについての漫才で169点を、それぞれ獲得した。

「深夜のぶっ込みネタLIVE」で滝音が野球部をテーマにしたコント、濱田祐太郎が魂の叫びを含んだ漫談、ニッポンの社長がセンスに卓越したものがあることは間違いがないのだが、思想の根底にミソジニーが認められるコントを披露した。

「オールザッツネタバトル」でヤッシー&マリコンヌが歌ネタで149点、ダブルアートがセンスの面では1回戦に通じるところがあるが、ミソジニーが認められもするタイプのコントで144点、今井らいぱちは笑い飯・哲夫からやはり和牛・川西のハイクオリティーなものまねで185点であった。

この結果、今井らいぱち、デルマパンゲ、岡田直子が決勝進出することになった。

結婚披露宴には天才ピアニストますみが上沼恵美子の役で登場し、ひじょうにクオリティーの高いものまねをまたしても進化させていた。さや香・新山が演じるエレファントカシマシの宮本浩次にはチャレンジ精神が感じられて良かった。最後に伊織がサプライズでピアノ弾き語りを妻の藤林アナに捧げる。仕事の合間に練習したということで、技術的な不足は否めないところもあるが、実にハートウォーミングで静かな感動すらあったのではないか。

「深夜のぶっ込みネタLIVE」も最後のパートで、コウテイがラジコンを駆使した特撮モノ的でもあるコント、セルライトスパがイエロー・マジック・オーケストラ「ライディーン」を効果的に使用した夫婦コント、トリは守屋日和のターザン的なコントで、得意としているパターンを生かし、さらに進化させているようにも思えた。

かつて、リットン調査団、野生爆弾、土肥ポン太、天竺鼠などが継承してきた「オールザッツ漫才」の最後の方に相応しいエッセンスを、マイルドに感じたりもした。

最後の「オールザッツアンケート」は、藤崎マーケットの「ギャロップ林の色んな表情をスーパースローで見たい」で、ギャロップ林は「M-1グランプリ」ファイナリストで、そこそこの芸歴にもかかわらず午前3時にスタジオ入りし、頭上から水風船を落とされて私服でずぶ濡れになったりもしていた。

「オールザッツネタバトル」の決勝戦は、岡田直子が1回戦、準決勝戦と同じタイプのネタをより長く深くやって134点、デルマパンゲは松浦亜弥「ね~え?」を流しての漫才で150点、今井らいぱちはが~まるちょばから、やはり和牛・川西のひじょうにクオリティーの高いものまねで190点、優勝は今井らいぱちであった。

番組の放送終了後、YouTubeで反省会が約17分ほど配信され、一週間ぐらいはアーカイブで視聴することができるようである。司会の和牛、アキナ、アインシュタインが番組について振り返り、「オールザッツネタバトル」で優勝した今井らいぱちを迎えて少しトークを行ってもいた。

「オールザッツ漫才」のバトルで優勝すると翌年以降に全国的にブレイクすることが少なくはないのだが、今井らいぱちは一体、どうなるのだろうか。今回のバトルでは和牛・川西のものまねが評価されたわけだが、「浅越が行く」のコーナーでやっていた野球部OBの竹下先輩もかなり良かったのではないかと思う。

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