1982年の邦楽ポップス名曲ベスト20

1982年にリリースされた邦楽ポップスから、これは名曲ではないだろうかと思える20曲を挙げていきたい。

20. 雨のステラ/伊藤銀次

伊藤銀次のアルバム「BABY BLUE」に収録され、シングルカットもされていた曲である。

この年の3月21日には大滝詠一、佐野元春、杉真理によるアルバム「ナイアガラ・トライアングルVol.2」がリリースされ、オリコン週間アルバムランキングで最高2位を記録する。その周辺の音楽もいろいろ聴いてみようとする若者も少なからずいたのだが、1976年にリリースされた「ナイアガラ・トライアングルVol.1」に参加していたのが大滝詠一、山下達郎、伊藤銀次で、さらに伊藤銀次は佐野元春の作品にもかかわっていた。

このようなタイミングでリリースされたのが「BABY BLUE」で、伊藤銀次にとってはポリスターに移籍してから最初のアルバムでもあった。そういった訳で雑誌などでもわりと取り上げられていたし、ラジオのCMスポットを聴いた記憶もある。

甘いボーカルとエバーグリーンなポップスをアップデートしたかのような音楽性が、当時の気分にもマッチしていたように思える。デイヴ・クラーク・ファイヴ「ビコーズ」にインスパイアされたともいわれている。

この年の10月4日からフジテレビで「森田一義アワー 笑っていいとも!」の放送が開始されるが、オープニングテーマの「ウキウキWATCHING」を作曲していたのも伊藤銀次であった。

19. ねらわれた少女/真鍋ちえみ

真鍋ちえみのデビューシングルで、オリコン週間シングルランキングで最高91位を記録した。

70年代後半のニューミュージック全盛の頃にはフレッシュアイドルがなかなかブレイクできない状況があったのだが、80年代に入ると田原俊彦、松田聖子を皮切りにヒットチャートを新しいアイドルの曲がにぎわすようになっていく。

この年には特に人気者となる女性アイドルが多数デビューして、「花の82年組」などと呼ばれるようになったりもする。

真鍋ちえみは北原佐和子、三井比佐子とオスカープロモーションのアイドルグループ、パンジーを組んでいたのだが、レコードはそれぞれ別々にリリースしていた。

この曲はそれほどヒットしなかったものの、雑誌「よい子の歌謡曲」を読んでいるような人たちにはひじょうに人気があった。細野晴臣が作編曲をした、いわゆるテクノ歌謡の名曲としても知られている。

18. ハートブレイク太陽族/スターボー

宇宙出身で性別不詳という設定であった女性アイドルグループ、スターボーのデビューシングルで、オリコン週間シングルランキングでは最高98位を記録した。

これもまたテクノ歌謡の名曲であり、作編曲は細野晴臣である。作詞は松本隆で「俺から不良になっちまう」「熱いぜ 太陽の季節」といったフレーズが印象的なのだが、書いた記憶がまったくないと後に語っているようだ。

17. 土曜の夜はパラダイス/EPO

ビートたけし、明石家さんまなどが出演していたフジテレビのバラエティー番組「オレたちひょうきん族」は、「THE MANZAI」と同様に若者向けのシティ感覚を意図的に強調することによって人気が出たところもあるように思えるのだが、エンディングテーマとしてずっと流れていたのがEPOの「DOWN TOWN」である。

レコードは1980年にすでに発売されていて、ラジオでもよくかかっていたのだが、この番組のエンディングで流れるようになって、より有名になったように思える。それが山下達郎が以前にやっていたバンド、シュガー・ベイブのカバーだということも。当時の地方都市の中学生などは知っていくのだが、それ以前にこの曲が日本の一般大衆にどれぐらい認知されていたのかは、実感としてよく分からない。

「DOWN TOWN」に替わって「オレたちひょうきん族」の新しいエンディングテーマに採用されたのが、EPOにとって4枚目のシングルとなるこの曲だったのだが、今度はカバーではなくオリジナル曲である。

週末の街のにぎわいやわくわくする感じを表現している点において「DOWN TOWN」と共通しているところもあるし、「オレたちひょうきん族」のエンディングテーマにも合っていたように思える。

16. 色彩都市/大貫妙子

大貫妙子は山下達郎らと共にシュガー・ベイブのメンバーだったのだが、解散後はソロアーティストとして活動し、1977年にはいまやジャパニーズ・シティ・ポップを代表する名盤として評価が定着している「SUNSHOWER」をリリースする。

約2年間の休養を経て、80年代にはヨーロピアンテイストのポップスに取り組んでいくのだが、この曲を収録したアルバム「クリシェ」はその路線での3作目のアルバムである。

シングルカットもされた「ピーターラビットとわたし」「黒のクレール」が当時は知られやすかったが、圧倒的なオリジナリティーが感じられるこの曲こそが名曲と呼ぶに相応しいような気がする。

15. けんかをやめて/河合奈保子

河合奈保子の10枚目のシングルで、オリコン週間シングルランキングで最高5位を記録した。

2人の男性の心を弄んでおきながらけんかをやめて、二人をとめて、私のために争わないでとはどういうことだと言いたくもなる竹内まりやによる提供曲なのだが、河合奈保子の真っ直ぐなボーカルで聴くと、そういうこともあるよね、と感情移入すらしてしまえるという不思議な楽曲である。

休業中の竹内まりやがそもそも河合奈保子のことをわりと気に入っていて、オファーもされていないのに書いていた曲だという。

14. すみれ September Love/一風堂

一風堂の6枚目のシングルで、「ザ・ベストテン」で1位だったイメージが強いが、オリコン週間シングルランキングでは最高2位であった。

資生堂のCMソングとはいえ、こういったニュー・ウェイヴ的な曲が大ヒットしてしまうのはなかなか痛快であった。

中心メンバーの土屋昌巳は当時、イギリスのニューウェイヴバンド、ジャパンのワールドツアーに参加していたため、「ザ・ベストテン」に海外からの中継で出演していたのが印象的である。

一風堂のバンド名の由来は博多ラーメンの有名チェーン店ではなく、渋谷にあったディスカウントショップである。そして、博多ラーメンの一風堂は創業者がこのバンドのファンであったことが由来の1つだという。

13. スターダスト・キッズ/佐野元春

1980年に「アンジェリーナ」でデビューした佐野元春はライブハウスで人気の新進アーティストとして話題にはなっていたのだが、セールス的にはそれほどヒットしていなかった。それが1981年に大滝詠一のナイアガラ・トライアングルに抜擢されると知名度が上がり、この年にリリースされたアルバム「SOMEDAY」がオリコン週間アルバムランキングで最高4位のヒットを記録した。

この曲は1981年のシングル「ダウンタウン・ボーイ」のB面に収録されていたのだが、アレンジを変えて再レコーディングされたバージョンがシングル表題曲としてリリースされた。オリコン週間シングルランキングでは、最高58位を記録している。

12. サマーツアー/RCサクセション

RCサクセションの12枚目のシングルで、オリコン週間シングルランキングで最高7位を記録した。

いよいよメジャーなヒット曲ともなり、「ザ・ベストテン」「夜のヒットスタジオ」といったテレビ番組にも出演するのだが、ポップでキャッチーに素行が悪く、良識派からは顰蹙を買ったが最高であった。

アルバム「BEAT POPS」に収録されたのがライブバージョンだったこともあり、シングルバージョンはCD化もなかなかされなかったのだが、現在では配信などで容易に聴くことができる。

11. 匂艶THE NIGHT CLUB/サザンオールスターズ

サザンオールスターズはデビューしてからしばらくヒットシングルが続いた後、音楽制作に集中するため意図的にメディアへの露出を減らしていくのだが、そうするとシングルは売れなくなったがアルバムは出せば必ず1位という本格的なアーティストにありがちな感じになっていった。

しかし、この年からはシングルもまたひっとするようになり、この曲はオリコン週間ランキングで最高8位を記録した。

田中康夫はサザンオールスターズの曲は現代の春歌だというようなことも書いていたのだが、この曲においてもそういったエッセンスが見られ、その辺りが80年代的なギラギラしながらも陽気でポップなリビドー感覚のようなものを体現していて、若者たちに受けたのではないかと思われる。

10. 小麦色のマーメイド/松田聖子

松田聖子の10枚目のシングルで、オリコン週間シングルランキングで1位に輝いた。

アイドルポップスにおいては「花の82年組」が活躍しはじめていたこともあり、松田聖子にはデビュー3年目にしてすでに大御所の貫禄があった。この曲などはアイドルポップスというよりはAOR/シティポップ的なテイストの方がサウンド的には特に強く、うっとりするようなたまらなさがあった。

好きと嫌い、嘘と本当の間で微妙に揺れ動く心のニュアンスを表現した松本隆の歌詞も素晴らしく、2013年の天野春子(小泉今日子)「潮騒のメモリー」(作詞:宮藤官九郎)でもオマージュされていた。

9. TVの国からキラキラ/松本伊代

松本伊代が「センチメンタル・ジャーニー」でレコードデビューしたのは1981年10月21日だが、賞レースでは1982年の新人扱いとなっていたため、「花の82年組」の1人とされていた。

3枚目のシングルとなるこの曲はオリコン週間シングルランキングでは最高15位、「ザ・ベストテン」では最高9位を記録した。

時代の寵児ともいえる活躍をしていたコピーライターの糸井重里が作詞を手がけていることでも話題になったが、タイトルがあらわしているように、80年代的なキラキラ感とユニークなボーカルが相まって独特なポップ感覚を生み出している。「ねえ 君ってキラキラ?」というセリフのところも最高である。

8. スローモーション/中森明菜

中森明菜のデビューシングルで、オリコン週間シングルランキングで最高30位を記録した。

デビューが5月1日と「花の82年組」の中では遅い方だったのだが、2枚目の「少女A」で早くもトップ10を果たし、その後はスターへの道をまっしぐらであった。デビュー当時のキャッチフレーズは「ちょっとHな美新人娘(ミルキーっこ)」である。

楽曲のクオリティーとボーカルの初々しさによって、ファン以外からもひじょうに評価が高い曲という印象がある。

7. 真珠のピアス/松任谷由実

松任谷のアルバム「PEARL PIERCE」の収録曲で、シングルではリリースされていない。

70年代の荒井由実時代からのファンに加え、1981年に「守ってあげたい」が大ヒットしたこともあり、新しい世代のファンも増えているタイミングでリリースされたアルバムである。

別れる恋人の部屋のベッドの下にピアスを片方だけ落として帰るという、絶妙に微妙な心理を描写した楽曲として大いに共感や賞賛を得る。オリコン週間アルバムランキングで1位に輝いたこのアルバムからは「DANG DANG」がラジオでよくかかっていたが、ファンの間ではこの曲や「ようこそ輝く時間へ」などにも人気があったような印象がある。

6. 赤道小町ドキッ/山下久美子

山下久美子の6枚目のシングルで、カネボウ化粧品のCMにも使われ、オリコン週間シングルランキングで最高2位を記録した。

ライブハウスで人気のアーティストとして早くからメディアでは紹介されていて、「総立ちの久美子」などとも呼ばれていた。同じライブハウス、新宿ルイードに出演していた佐野元春との交流もあった。

細野晴臣が作曲したこの曲は大ヒットとなり、「ザ・ベストテン」では本物の象に乗って歌っていた姿が強く印象に残っている。

5. 頬に夜の灯/吉田美奈子

吉田美奈子の9作目のアルバム「LIGHT’N UP」の収録曲で、シングルカットもされていなければアルバムも一般大衆レベルではそれほどヒットしていないのだが、それでもシティポップの名曲として、高く評価され続けている。

歌い出しの「灯ともし頃」という単語に馴染みはほとんどないのだが、街に夜の灯りがともる頃という意味であることはなんとなく分かるし、これ以外の言い回しはあり得ないというぐらいに曲の感じには合っている。

4. チャコの海岸物語/サザンオールスターズ

サザンオールスターズの14枚目のシングルで、オリコン週間シングルランキングで最高2位を記録した。

10位以内にランクインしたのは1979年の「C調言葉に御用心」だが、昭和テイストで田原俊彦を参考にしたという桑田佳祐のボーカルが特徴的なこの曲では、確実にシングルヒットを狙っていたといわれている。

この曲で「NHK紅白歌合戦」にも選出された。

3. 赤いスイートピー/松田聖子

松田聖子の8枚目のシングルで、オリコン週間シングルランキングで1位に輝いた。

数あるヒット曲の中でも、一般大衆的に最も人気が高いのではないかと思われる。松任谷由実(クレジット上は呉田軽穂)が初めて松田聖子に提供した楽曲でもある。

「あなたと同じ青春 走ってゆきたいの」というフレーズに、刹那的でもなければ夢見心地の永遠志向でもない地に足の着いたこの先を考えている感があってとても良かった。

また、半ツッパリ的なあり方がモテやすい男子のスタンダードだった当時において、「煙草の匂いのシャツ」はキラーワードすぎてガツンときた。

2. SPARKLE/山下達郎

山下達郎の6作目のアルバム「FOR YOU」で1曲目に収録されている曲で、インストゥルメンタル部分がサントリー生ビールのCMに使われた。

鈴木英人のイラストによるジャケットアートワークも含め、大滝詠一「A LONG VACATION」と共に80年代のシティポップを代表するアルバムである。

「夏だ!海だ!タツローだ!」のキャッチフレーズが特にピッタリな作品であり、カーステレオや砂浜のラジカセなどで聴くのにも最高であった。もちろん大抵は自宅や移動中のヘッドフォンステレオなどで聴くことになるのだが、それでもリゾート感覚のようなものが味わえるというのが、シティポップの機能の1つでもあった。

このアルバムはこの年の1月21日にリリースされたが、この半年後にはベストアルバム「GREATEST HITS! OF TATSURO YAMASHITA」も発売された。

1. い・け・な・いルージュマジック/忌野清志郎+坂本龍一

RCサクセションとイエロー・マジック・オーケストラのそれぞれ最も人気があるメンバー同士のコラボレーションで、化粧品のCMソングともなればこれが売れないはずがないとは思えたのだが、オリコン週間シングルランキングで1位に輝いたのには驚かされた。

「ビックリハウス」「宝島」的なサブカル感覚がメインストリーム化した状況を象徴しているようであった。テクノポップとロックンロールをミックスしたような楽曲もユニークでとても良かった。