1973年の洋楽ロック&ポップス名曲ベスト20

1973年にリリースされた洋楽のロック&ポップスから有名だったり人気があったり特に重要だと思われる20曲を選んでいきたい。

20. Kodachrome – Paul Simon

ポール・サイモンの3作目のソロアルバム「ひとりごと」からの先行シングルとしてリリースされ、全米シングル・チャートで最高2位を記録した。邦題は「僕のコダクローム」である。タイトルの「コダクローム」とは当時コダックから発売されていたフィルムの名称であり、写した画像が反転せずそのままあらわれるという特徴からスライドなどに使用できることで人気があった。過ぎ去りし日々を懐かしく回想するタイプの楽曲で、後半の母にコダクロームを返してと懇願するところなどが印象的である。

19. If You Want Me To Stay – Sly & The Family Stone

スライ&ファミリー・ストーンの6作目のアルバム「フレッシュ」からの先行シングルで、全米シングル・チャートでは最高12位を記録した。スライ・ストーンが恋人とけんかをした後に謝罪として書いたものがベースになっていて、自分らしくいさせてもらえないならば関係はやがて終わるだろうというようなことが歌われている。

18. Midnight At Oasis – Maria Muldaur

マリア・マルダーのソロデビューアルバム「オールド・タイム・レイディ」(原題:Maria Muldaur」)からシングル・カットされ、全米シングル・チャートで最高6位を記録した。ロマンティックでセクシーな楽曲として知られ、多くのカップルが愛を交わす際にBGMとして聴いていたともいわれている。マリア・マルダーの素晴らしいボーカルに加え、エイモス・ギャレットのとろけるようなギターワークも好評である。90年代にはブラン・ニュー・ヘヴィーズがアシッドジャズ風にカバーしていた。

17. Don’t You Worry ‘Bout A Thing – Stevie Wonder

スティーヴィー・ワンダーのアルバム「インナーヴィジョンズ」からシングルカットされ、全米シングル・チャートで最高16位を記録した。邦題は「くよくよするなよ!」で、ポジティヴなメッセージソングとなっている。ラテン風のイントロやスペイン語のフレーズなども特徴的であり、90年代にはこれもアシッドジャズのインコグニートがカバーしてヒットさせている。小沢健二のソロデビューシングル「天気読み」にも影響をあたえたといわれている。

16. Piano Man – Billy Joel

ビリー・ジョエルにとって初となるヒット曲で、2作目のアルバム「ピアノ・マン」からシングルカットされ全米シングル・チャートで最高25位を記録した。ビリー・ジョエルがロサンゼルスのバーでピアノを弾いていた頃の実体験が曲のベースになっていて、歌詞の登場人物たちにはいずれも実在のモデルが存在するという。

15. Summer Breeze – The Isley Brothers

シールズ&クロフツが1972年にヒットさせた曲のアイズレー・ブラザーズによるカバーで、アルバム「3+3」からシングルカットされ、全英シングル・チャートで最高16位を記録した。オリジナルがソフトロック調だったのに対し、このバージョンはひじょうにソウルフルで、美しいコーラスワークやアーニー・アイズレーによる泣きのギターがひじょうに印象的である。サマーソングのプレイリストなどではアメリカではシールズ&クロフツ、イギリスではアイズレー・ブラザーズのバージョンが選ばれることが多いような気がする。

14. Goodbye Yellow Brick Road – Elton John

エルトン・ジョンの2枚組アルバム「黄昏のレンガ路」からシングルカットされ、全米シングル・チャートで最高2位を記録した。ソングライターコンビとして数々のヒット曲を世に送りだしてきたバーニー・トーピンが、この曲の歌詞ではエルトン・ジョンとの別れを示唆しているようでもある。それに美しメロディーをつけて歌うエルトン・ジョンのボーカルパフォーマンスもひじょうに素晴らしいものとなっている。

13. Jet – Paul McCartney & Wings

ポール・マッカートニー&ウィングスのアルバム「バンド・オン・ザ・ラン」からシングルカットされ、全米、全英いずれものシングル・チャートで最高7位を記録した。タイトルの由来はポール・マッカートニーが飼っていた愛犬の名前だといわれていたが、後にいくつかの別の説も出てきている。パワーポップにも通じるキャッチーでエネルギーに溢れているところが魅力的であり、個人的には1987年に「オール・ザ・ベスト」が発売された時に小田急相模原の小さなレコード店で流れていたこの曲を、おそらく初聴であろう小学生ぐらいの男の子たちがすぐに口ずさんでいたのが印象的である。

12. Killing Me Softly With His Song – Roberta Flack

ドン・マクリーンのパフォーマンスを見て感銘を受けた体験を元に書かれた曲を女性シンガーのロリ・リーバーマンが歌ったのがオリジナルだが、これを移動中に機内音楽プログラムで聴いたロバータ・フラックがカバーしたところ、全米シングル・チャートで1位、グラミー賞も受賞する大ヒット曲となった。日本では「やさしく歌って」の邦題で知られ、南沙織、尾崎紀世彦からボーカロイドの巡音ルカに至るまで様々なアーティストによってカバーされ、平井堅はロバータ・フラックとデュエットまでしている。90年代にはフージーズによるカバーバージョンも大ヒットした。

11. I Shot The Sheriff – Bob Marley & The Wailers

ボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズの警察権力の横暴に対するプロテストを含んだ楽曲であり、アルバム「バーニン」にも収録された。翌年にエリック・クラプトンがこの曲をカバーし、全米シングル・チャートで1位に大ヒットを記録するが、これによってレゲエという音楽やボブ・マーリーの名前がより広く知られるようになったともいわれている。

10. Personality Crisis – New York Dolls

パンクロックやグラムメタルに大きな影響をあたえたり、モリッシーがイギリスでのファンクラブを立ち上げていたことなどで知られるニューヨーク・ドールズだが、トッド・ラングレンがプロデュースしたデビューアルバムから「トラッシュ」との両A面でシングルカットされたのがこの曲である。グラムロック時代を描いた1998年の映画「ベルベット・ゴールドマイン」のサウンドトラックでは、エラスティカのエマ・マシューズをフィーチャーしたティーンエイジ・ファンクラブにもカバーされていた。

9. Search & Destroy – Iggy & The Stooges

「淫力魔人」なる邦題もかつてはつけられていたイギー&ストゥージーズの3作目のアルバム「ロウ・パワー」に収録され、シングルカットもされた曲である。タイトルは「タイム」誌に掲載されたベトナム戦争についての記事から取られている。生々しく激しい演奏とボーカルはパンクロックに強い影響をあたえたといわれる。

8. Bennie And The Jets – Elton John

アルバム「黄昏のレンガ路」からシングルカットされ、全米シングル・チャートで1位に輝いた。バーニー・トーピンによる歌詞は当時の音楽業界を皮肉ったものであり、サウンド面では歓声や拍手がダビングされたりリバーブがかけられるなど、疑似ライブ音源のようになっている。架空のバンドがテーマになっていて、邦題は「ベニーとジェッツ(やつらの演奏は最高)」である。

7. 20th Century Boy – T. Rex

T・レックスのアルバムからは独立したシングルとしてリリースされ、全英シングル・チャートで最高3位を記録した。前年の初来日ツアー時に東京の東芝EMI第1スタジオでレコーディングされている。歌詞にはモハメド・アリの「蜂のように刺す」というフレーズが引用されていたりもする。イントロが特にカッコいいのだが、大阪の日本橋にあった「ガッポリ」というアダルトをメインとしたDVDショップの店頭で、これに乗せて「ガッポリ買います」「ガッポリガッポリ」などというテープがリピートで流されていたことが思い出される。

6. Band On The Run – Paul McCartney & Wings

ポール・マッカートニー&ウィングスのアルバム「バンド・オン・ザ・ラン」からシングルカットされ、全米シングル・チャートで1位に輝いた。自由や解放といった概念をテーマにしていて、曲は3つのパートのメドレーのようにも聴こえる。ポール・マッカートニーの楽曲を酷評することもあったかつてのバンドメイト、ジョン・レノンがこの曲は気に入っていたともいわれている。

5. That Lady – The Isley Brothers

アイズレー・ブラザーズのアルバム「3+3」の先行シングルとしてリリースされ、全米シングル・チャートで最高6位を記録した。60年代に歌っていた「フーズ・ザット・レイディ」という曲がベースになっているが、このバージョンではかつてアイズレー・ブラザーズと一緒にツアーを回っていたというジミ・ヘンドリクスからの影響を受けたアーニー・アイズレーのギターが特徴的なファンキーな楽曲に生まれ変わっている。

4. Living For The City – Stevie Wonder

スティーヴィー・ワンダーのアルバム「インナーヴィジョンズ」からシングルカットされ、全米シングル・チャートで最高8位を記録した。邦題は「汚れた街」である。貧しい生い立ちの少年が都会に出てくるが、麻薬輸送の疑いで逮捕され牢屋に入れられるというストーリーによって、人種差別に対する怒りが都会的で洗練されてもいるサウンドに乗せてエモーショナルに歌われている。

3. Let’s Get It On – Marvin Gaye

マーヴィン・ゲイの13作目のアルバム「レッツ・ゲット・イット・オン」からの先行シングルで、全米シングル・チャートで1位に輝いた。「ホワッツ・ゴーイン・オン」のような社会的な楽曲から一転し、ロマンティックで官能的なコンセプトとファンキーなサウンドが特徴である。

2. Midnight Train To Georgia – Gladys Knight & The Pips

モータウンからブッダにレーベルを移籍して間もないグラディス・ナイト&ザ・ピップスのヒット曲で、全米シングル・チャートで1位に輝いた。邦題は「夜汽車よ!ジョージアへ」で、都会での夢が破れて地元に帰る男の姿が恋人の立場から歌われている。ジム・ウェザリーがこの曲を書いた時点では、汽車ではなく飛行機、ジョージアではなくヒューストンだったのだが、インスピレーションをあたえたのは女優で日本では80年代にカメリアダイアモンドのCMや「FOXY」のヒットで知られることになるスーザン・アントンであった。

1. I Can’t Stand The Rain – Ann Peebles

アメリカのソウルシンガー、アン・ピープルズの代表曲で、全米シングル・チャートで最高38位を記録した。コンサートに行こうと待ち合わせをしていたところ、雨が降ってきたためアン・ピープルズがふと呟いた言葉からインスピレーションを受けて、パートナーで後に夫となるドン・ブライアントが一気に書き上げたといわれている。雨だれを模しているかのようなティンバレスのサウンドが特に印象的である。80年代にはティナ・ターナーがカバーし、90年代にはミッシー・エリオットがデビューシングル「レイン」でこの曲をサンプリングしている。