スタイル・カウンシルの名曲ベスト10
ザ・スタイル・カウンシルはポール・ウェラーが1982年に当時イギリスで人気絶頂だったザ・ジャムを解散して、ミック・タルボットと結成したユニットである。
ザ・ジャムは怒れる若者、ポール・ウェラーを中心とする3人組のパンクバンドというような紹介のされ方が、日本の音楽ジャーナリズムにおいてはされていたような気もするのだが、いまや記憶が定かではなく、個人的な思い込みであった可能性も否定できない。
ともあれ、確かにパンクロック的なところはもちろんあるのだが、モッズリバイバルのバンドとして解釈した方がなんとなく分かりやすいということにもなっていて、音楽性は次第にソウルミュージックなどから影響を受けたものになっていった。
そういった訳で、ザ・ジャムからザ・スタイル・カウンシルへの音楽性の移行は実はそれほど不自然ではないのだが、パンクロックからソウルやジャズに影響を受けたポップスという表面だけを見れば激変ということもできる。それで、ザ・ジャムのファンには抵抗をしめす者も少なくはなかったという。
その頃のザ・ジャムといえば、いわゆるそういったタイプの音楽を好むファンというよりは、全英シングル・チャートでも1位になっていたりしたので、かなりメジャーに人気があったのではないかと想像ができる。
日本ではザ・ジャムなど聴いたことがない人たちも含め、クールでスタイリッシュな音楽としてカジュアルに消費されていたようなところもあると思うのだが、それもまたいとをかしというものであろう。
そんなザ・スタイル・カウンシルの音楽からこれは名曲なのではないかと思える10曲を挙げていきたい。
10. Money-Go-Round (1983)
ザ・スタイル・カウンシルの2枚目のシングルとしてリリースされ、全英シングル・チャートで最高11位を記録した。
高度資本主義に対する批判を含むプロテストソングとしての側面も持った、ファンキーな楽曲である。
ザ・スタイル・カウンシルの音楽はクールでスタイリッシュではあったのだが、政治的なメッセージを含んでいたり、社会的な問題をテーマにしていることはひじょうに多く、場合によってはザ・ジャム以上に痛烈だったりもする。これもまたそういった楽曲のうちの1つである。
9. Wanted (Or Waiter, There’s Some Soup In My Flies) (1987)
1987年のアルバム「コスト・オブ・ラヴィング」よりも後でシングルのみでリリースされた曲で、全英シングル・チャートでは最高20位を記録した。
キーボードやスラップベースのサウンドに特に80年代後半的なテイストが感じられるが、むしろそこが味わい深く、初期の楽曲とはまた違った良さがあるように思える。
8. Shout To The Top (1984)
アルバム「カフェ・ブリュ」と「アワ・フェイヴァリット・ショップ」の間にシングルとしてリリースされ、全英シングル・チャートで最高7位を記録した。映画「ビジョン・クエスト/青春の賭け」のサウンドトラックにも、マドンナ「クレイジー・フォー・ユー」などと一緒に収録されていた。
とてもキャッチーで分かりやすい曲ではあるのだが、それゆえにいま一つという感想も少なくはなかったような気がする。
佐野元春「Young Bloods」、ビートたけし&松方弘樹「I’ll Be Back Again…いつかは」などに影響をあたえたともいわれている。
7. How She Threw It All Away (1988)
4作目のアルバム「コンフェッション・オブ・ア・ポップ・グループ」からシングルカットされ、全英シングルチャートで最高41位を記録した。
この頃には勢いがかなり失速していて、アルバムの評価も芳しくはなかったのだが、良い曲もいくつか入っていて、これもそのうちの1つである。
6. Speak Like A Child (1983)
ザ・スタイル・カウンシルのデビューシングルで、全英シングル・チャートで最高4位を記録した。
ソウルミュージックからの影響が感じられ、ミック・タルボットのオルガンがひじょうに重要な役割を果たしている。
バックコーラスで参加しているのは、ポール・ウェラーのレスポンド・レーベルからソロアーティストとしてもデビューしたトレイシー・ヤングである。
5. Have You Ever Had It Blue (1986)
ジュリアン・テンプル監督の映画「ビギナーズ」のサウンドトラックアルバムからシングルカットされ、全英シングル・チャートで最高14位を記録した。
ベースとなっているのは「アワ・フェイヴァリット・ショップ」に収録されていた「ウィズ・エヴリシング・トゥ・ルーズ」だが、タイトルと歌詞が変わっているほかに、よりジャジーでソフィスティポップ的なアレンジがなされている。
スウィング・アウト・シスターなどの音楽に通じるような、クールでスタイリッシュな音楽好きにハマりそうな楽曲である。
4. You’re The Best Thing (1984)
初のフルアルバム「カフェ・ブリュ」からシングルカットされ、全英シングル・チャートで最高5位を記録した。
「カフェ・ブリュ」はひじょうにバラエティーにとんだアルバムだが、この曲には特にソウルミュージックからの影響が感じられ、淡く青い印象もある。
3. Long Hot Summer (1983)
ザ・スタイル・カウンシルの3枚目のシングルで、全英シングル・チャートで最高3位を記録した。
シンセベースと打ち込み感覚のハンドクラップが印象的なソウルチューンである。この年の夏、イギリスは猛暑だったというのだが、この曲の他に夏を感じさせるヒット曲としてワム!「クラブ・トロピカーナ」があった。
ザ・スタイル・カウンシルに参加し、ポール・ウェラーと結婚(後に離婚)することにもなるD.C.リーはそれ以前にワム!に関わってもいて、「クラブ・トロピカーナ」のミュージックビデオにもちゃんと映っている。
2. Walls Come Tumbling Down! (1985)
「アワ・フェイヴァリット・ショップ」からの先行シングルで、全英シングル・チャートで最高6位を記録した。
ザ・スタイル・カウンシルの楽曲の中ではザ・ジャム時代に近いパンキッシュな感覚もあり、歌詞はやはり政治的なメッセージを含んでいる。
この年の夏に開催された「ライヴ・エイド」にはステイタス・クォーに続く2組目に出演し、この曲も演奏していた。
1. My Ever Changing Moods (1984)
全英シングル・チャートで最高5位を記録したほか、全米シングル・チャートでも最高29位まで上がった。ザ・ジャムやソロ楽曲を含め、ポール・ウェラーにとって唯一の全米トップ40ヒットとなっている。
アルバム「カフェ・ブリュ」にはピアノ弾き語り的な別バージョンが収録されているが、アメリカではシングルバージョンを1曲目に収録した別内容のアルバム「マイ・エヴァ・チェンジング・ムーズ」がリリースされていた。
ポール・ウェラーとミック・タルボットが自転車で競争するミュージックビデオもまた、クールでスタイリッシュを体現したかのような素晴らしさであった。
フリッパーズ・ギター「HAIRCUT 100(バスルームで髪を切る100の方法)」にも影響をあたえたのではないかと考えられる。