キャロル・キング「つづれおり」【名盤レヴュー】

キャロル・キングの2作目のアルバム「つづれおり(原題:Tapestry)」が発売されたのは、1971年2月10日である。キャロル・キングが生まれたのは1942年2月9日だということなので、29歳の誕生日の翌日に発売されたということになる。70年代のシンガーソングライターブームを代表するアルバムとして、ジョニ・ミッチェル「ブルー」やニール・ヤング「ハーヴェスト」などと並んで名前が挙がることが多い歴史的名盤である。

といっても聴くのにそれほど敷居が高いタイプのアルバムではなく、確かにすごいのだが同時にひじょうに親しみやすくもある。キャロル・キングは高校生の頃から職業作曲家として活動し、一時期は夫でもあったジェリー・ゴフィンとのコンビで数々のヒット曲を生み出してきた。代表的なものとしてはリトル・エヴァ「ロコ・モーション」(グランド・ファンクやカイリー・ミノーグによるカバーも有名である)などがあるが、シュレルズ「ウィル・ユー・ラヴ・ミー・トゥモロー」、アレサ・フランクリン「ナチュラル・ウーマン」はキャロル・キングによるセルフカバーバージョンが「つづれおり」に収録されている。

そして、やはりこのアルバムに収録されている「君の友だち」はキャロル・キングのバージョンにも参加しているジェームス・テイラーによってカバーされ、全米シングル・チャートで1位に輝いている。いずれのバージョンでも、ジョニ・ミッチェルがバッキングボーカルで参加している。

アコースティックでオーガニックなサウンドがこの時代にはまだ最先端でもあり、あえてやっているという感じではなかったのだろう。演奏の素晴らしさとキャロル・キングのシンガーソングライターとしての充実ぶりが見事にマッチしている。その表現はひじょうにパーソナルで人間味が感じられるものではあるのだが、それでいてユニヴァーサルに共感や共有もされうる水準にも達している。

個人的には80年代の後半に実家に帰省していた時に、佐野元春のラジオ番組で「イッツ・トゥー・レイト(心の炎も消え)」がかかり、そのアンニュイな感じにすぐに心を奪われたのであった。相模原のすみやというCDショップで、その曲も収録されたキャロル・キングのベストアルバムを買った。「つづれおり」にしなかったのは、ベストアルバムの方がシングル曲がたくさん入っていてお得そうだから、といういかにも浅薄な考えによるものだったのだが、「ジャズマン」「スウィート・シーズン」などもかなり気に入ったので、それはそれで良かった。それにしても、「つづれおり」の1曲目にも収録されている「I Feel The Earth Move」の「空が落ちてくる」という邦題にはインパクトがあった。

80年代のシンセサウンドが最先端であった時期に思春期を送った世代にとっては、こういったアコースティックでオーガニックなサウンドというのがむしろ新鮮であったりもするのだが、70年代の荒井由実の音楽を聴いた時にも同じようなことを感じた。あとはこの「つづれおり」というアルバムについては、六本木WAVEの店長から取り置きを頼まれたという記憶もある。洋楽の国内盤旧譜には毎週確実に何枚かは売れるので、常に補充発注して切れている状態を最短にしておかなければいけないタイトルがいくつかあるのだが、「つづれおり」もそのうちの1つであった。また、ザ・スタイル・カウンシル「カフェ・ブリュ」などは80年代のアルバムではあったのだが、これらと同等の扱いであった。

いろいろな音楽雑誌やサイトが発表する名盤リスト的なものは、時代の移り変わりによって変化していくわけだが、「つづれおり」は近年の女性シンガーソングライターの活躍が影響してか、評価を上げているようにも感じられる。「ローリング・ストーン」誌の歴代ベストアルバムのリストでは2003年版で36位にランクインしていたのだが、大幅なアップデートが行われた2020年版では25位にアップしている。また、「NME」による同様のリストでは1974年版では26位だったものの、80年代以降はずっと入っていなかったのだが、2013年版では82位にランクインしている。