「キングオブコント2021」の感想のようなもの。

いわゆるお笑い賞レース的なものを見たり見なかったりしていて、それについて書いたり書かなかったりはしているのだが、今回はなんとなく書いておきたいような気がするのでそうしていきたい。

まず前提としてこういったお笑い賞レース的なものは特に大好きな芸人がファイナリストに選ばれていたりすると、やはり優勝してほしいので、素直にネタを楽しむというよりは、見守るような気持ちの方が大きくなりすぎるのと、他に対して面白くなければいいのにというような良からぬ感情が出てきてしまったりもして、素直に楽しめないような側面もあるのだが、それでもトータルとしてハイレベルなネタの数々が地上波ゴールデンタイムでたくさん見られるというスッペシャルな時間であることには間違いがなく、まずはそのように楽しもうとはしている。

それで、今回の「キングオブコント2021」なのだが、当初からユニットでの参加が可能になったことが話題になっていたのと、個人的にはずっと「キングオブコント」の欠点だと思っていた審査員問題が解消、というか松本人志以外が入れ替えという話題が入ってきたりはしていた。ユニット参加といえば「M-1グランプリ」ではずっと参加資格としては解禁されているのだが、昨年は「R-1ぐらんぷり」改め「R-1グランプリ」の出場資格改訂により、芸歴10年以内の芸人しか出場できなくなったことによって資格を失った、おいでやす小田とこがけんによるユニット、おいでやすおだが「M-1グランプリ2020」で準優勝という大旋風を起こし、その後もメディアで活躍ということもあったので、ここに注目はあつまった。特に過去の優勝と準優勝を経験しているシソンヌとチョコレートプラネットとのユニット、チョコンヌなどである。

それから、マヂカルラブリーの野田クリスタルが「R-1ぐらんぷり2020」で優勝した後、「M-1グランプリ2020」でもコンビで優勝して2冠を達成したのだが、一方、「M-1グランプリ2018」で優勝した霜降り明星の粗品が「R-1ぐらんぷり2019」でも優勝し、こちらも2冠を達成していた(しかも、粗品は霜降り明星結成以前に「オールザッツ漫才2012」でも優勝していたのですごい(ちなみに当時、ラジオ「笑い飯の金曜お楽しみアワー」内で結成された童貞の芸人のみによるユニット、エナジーボーイズのメンバーとしても活動していた)。霜降り明星は今年、コントにも力を入れていたということもあり、マヂカルラブリーと霜降り明星が共にファイナリストとなれば、史上初の3冠を目指してのバトルという点でも盛り上がったと思われる。

準決勝進出者が発表になった時点で、そのような盛り上がりもあるのではないかと感じていたのだが、チョコンヌも霜降り明星もファイナリストには選ばれていなかったのと、発表された10組のラインナップを見て、これはかなりしっかりとネタのクオリティーを重視して審査が行われているのではないかと感じられた。うるとらブギーズ、蛙亭、空気階段、ザ・マミィ、ジェラードン、そいつどいつ、男性ブランコ、ニッポンの社長、ニューヨーク、マヂカルラブリーと、ザ・マミィだけはよく知らなかったのだが、いかにもいまコントが本当におもしろいコンビばかりが選ばれたという印象であった。

個人的にお笑い全体のファンというわけではなくて、見るのも嫌なお笑い芸人というのは実際に何人(組)かはいたり、基本的にbaseよしもと~5upよしもとのファンであった頃の感覚を引きずってはいるので、実際に準決勝でかなり受けていたという天竺鼠や、5年連続ファイナリストがかかっていたGAGがファイナリストに残れなかったことが残念にも感じられたのだが、それでもファイナリストのラインナップには過去の「キングオブコント」で最も期待が持てるのではないかと感じられた。そして、審査員の入れ替えがやはり素晴らしく、この時点で誰になるのかはまだ明かされていなかったものの、昨年までよりはましになることはほぼ間違いないだろうと確信はしていた(そのハードルはひじょうに低いものではあったわけだが)。

そして、実際に見た結果として、このファイナリストのラインナップからかなり期待していたよりもずっと良かったということがいえる。すでに「キングオブコント」では史上最高の大会になったのではないかというようなことをいろいろな人達が言っているような気がするが、まったくその通りだったのではないかと思える。まず、ネタのクオリティーがいずれも高くて、個人的に嫌な気分になるものが一つもなかったことに加えて、審査員のコメントの部分が大きく改善されていたのがとても良かった。この日はTBSテレビで午後2時ぐらいから「お笑いの日2021」と題していくつかの番組が連続して放送されていて、「キングオブコント2021」の新しい審査員はその中で1人ずつ発表されていったようだ。かまいたちの山内健司とバイきんぐの小峠英二、ロバートの秋山竜次といういずれも「キングオブコント」の歴代優勝者で、現在もメディアで大活躍している芸人というのがとても良い。そして、「キングオブコント2021」のオープニングあたりで最後の1人が発表されたのだが、それがやはり「キングオブコント」歴代優勝者である東京03の飯塚悟志であった。できれば女性審査員が1人はいてほしいという希望はあったのだが、この全員が優勝経験者というラインナップにはぐ~のねも出ず、これにはかなり納得がいったのに加え、審査コメントもひじょうに的確かつファイナリストに対してのリスペクトが感じられ、視聴者としてとてもためになるところも多かった。

ネタのクオリティーはいずれもひじょうに高く、後は好みというところもあるのだろうが、空気階段の1本目は圧倒的であり、ザ・マミィの1本目もひじょうに素晴らしかった。そして、順当に最終決戦に残り、優勝と準優勝であった。個人的には審査員では山内健司と松本人志の評点に納得がいき、秋山竜次のそれとはあまり合っていないように感じたが、コメントがひじょうに的確でためになるところもあったため、それがそれほど嫌だとは感じなかった。山内健司が番組終了後、「個人的MVPは蛙亭」とツイートしていて、それは私もまったく一緒だったのでとてもうれしく感じられた。また、NegiccoのKaedeも「蛙亭さんの余韻がすごい」とツイートしている。蛙亭の中野周平はBase Ball Bearのファンであり、高校生ぐらいの時にライブ会場で買ったというコラボグッズのG-SHOCKをいまだに使用しているわけだが、Base Ball Bearがつい最近に発表した新曲「DIARY KEY」も2021年になってからリリースした「ドライブ」「SYUU」「プールサイダー」と同様に素晴らしいので、10月27日に発売されるアルバムがとても楽しみである。それはまあ良いのだが、1組目に登場した蛙亭のネタがもう本当に素晴らしく、個人的にも好みだったのだが、2組目のジェラードンに1点差で抜かれた。秋山竜次は蛙亭よりもジェラードンに6点も高く付けていたので、その時点で個人的にはやや不機嫌になってはいたのだが、「女芸人No.1決定戦 THE W 2020」でAマッソがゆりやんレトリィバァに敗退したことがあまりにもショックで、その後の番組の内容がまったく頭に入って来なくなったようなことはなかったのでよかった。

蛙亭はもう何年も前に妻とルミネ the よしもとに「大阪芸人博覧会」とかいうライブを見に行った時に、イワクラ(当時は岩倉美里)が人形を持って漫才をしていたが、それ以前にも大阪に行った時などに何度か見ていた。2020年に東京に進出したのだがすぐにコロナ禍となり、単独ライブができなくなったりしていたと思う。あと、大阪でライブを見た時、中野周平がお絵描き芸人のようなかたちで出演していたような気もする。天竺鼠がちゃんとMCをやっていて驚かされた(しかも、遠くから来たっていう人いらっしゃいますか、のくだりで当ててもらって感激した)。

それはまあ良いのだが、蛙亭はイワクラと中野周平の男女コンビで、ネタの設定はイワクラが考えている。そのセンスに卓越したものがあるのに加え、男女の絶妙な関係性というようなものに、とても良いものを感じたりもする。お笑いにおいてはいまだにミソジニーというか女性蔑視的な価値観が根強く残っているところもあり、初期のヒップホップファンが感じていたジレンマに近いものを覚えたりもして、特にこんな嫌な気分になるのならもうお笑いそのものを見るのをやめた方が良いのではないか、というようなネタや芸人を見てしまうこともある。そういったところこそがお笑いの醍醐味なのだという価値観はあるのだろうとは思うのだが、個人的にはまったく相容れないように思える。そこへいくと蛙亭のネタというのはとても良くて、今回のネタに関しては見た目などによる偏見というのはどうしてもあるものだが、それを良くないものと認識し、その先にはそれを超えたものがあるのだという点を、SF的な設定も用いて表現したところが素晴らしいと感じた。

今回のネタとは関係がないが、宮崎県出身のイワクラは「宮崎よかとこチャンネル」というYouTubeチャンネルをやっているのだが、同郷出身のとろサーモンと宮崎県のことを話したりもしている。コラボレーションでとろサーモンのチャンネルにイワクラが出演しているバージョンもあるのだが、「宮崎弁全開で喋ってきたらお蔵入りといわれた」という動画が好きすぎて、もう何度も再生している。

今回、大阪を拠点としているファイナリストはニッポンの社長のみということだったのだが、蛙亭、男性ブランコは元々は大阪の吉本に所属していて、いずれも東京に進出している。「キングオブコント2021」の前に放送されていた「ザ・ベストワン」で海原やすよ・ともこも嘆いていたのだが、最近は大阪から東京に進出する芸人がひじょうに多いという。大阪の吉本では個人的に彗星チークダンス(以前のコンビ名はいなかのくるま)に注目をしているのだが、ブレイクしたら東京に進出しそうな気がひじょうにしている。男性ブランコはラーメンズフォロワーでもあるため、そもそも東京の方がハマりやすかったのかもしれないが、今回は大阪の感じを設定として使ってきていたところもあって、その辺りが絶妙でとても良かった。

今回、ファイナリスト達のネタを見る限り、お笑いにいまもありがちな容姿や属性をただ差別しておもしろがるようなタイプのネタがほとんどなく、そういった個性そのものを多様性として包摂したり共生していこうというようなテイストのものが多いように感じられた。あえてこのようなものが選ばれたのか、ごく自然にアップデートされているのかは定かではないのだが、個人的にはとても良い傾向だと思えた。よくポリティカル・コレクトネスが進むとお笑いがつまらなくなるというような意見もあるのだが、けしてそんなことはなく、むしろクオリティーが上がっているのではないかということを実感させられたりもした。実際にはそれほど単純ではないが、それにしてもとても良くはなっているように思えるし、実際にエンターテインメントとしても素晴らしかった。

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