イーグルス「イーグルス・グレイテスト・ヒッツ 1971-1975」【名盤レヴュー】
イーグルス初のベストアルバム「イーグルス・グレイテスト・ヒッツ 1971-1975」は1976年2月17日にリリースされたのだが、それから45年と少しが経過した時点で、歴代で最も売れたアルバムということになっている。一時的にマイケル・ジャクソン「スリラー」に抜かれていたのだが、その後ふたたび抜き返している。
イーグルスで最も有名な作品は「ホテル・カリフォルニア」というのが一般的な認識なのではないかというような気もするのだが、リリースはこれよりも後なので、当然このベストアルバムにも収録されていない。イーグルスにはキャリア全体から占拠されているベストアルバムを存在していて、わりとよく売れているものもあるのだが、最も売れ続けているのがデビューから4作目のアルバムのみから選曲されたこのアルバムだというのがまたおもしろい。
「ホテル・カリフォルニア」にはあの「ここにはそのスピリットは1969年以降置いていません」という歌詞における「スピリット」という単語にはお酒と魂がかかっている、というような解説をはじめ、暗さのようなものが漂っている。その後の「ロング・ラン」となると、シングルカットされヒットした「言いだせなくて」のAOR的な感じなども思い出される。
一方、この「イーグルス・グレイテスト・ヒッツ 1971-1975」に収録されているイーグルスの音楽はより明るく無邪気にも感じられる。そして、「ホテル・カリフォルニア」は確かに素晴らしい作品だが、それ以前の感じをイーグルスには求めている状況というのも、かなりあるのではないかというような気もしている。それが、このベストアルバムの驚異的なセールスにもつながっているのだろうか。
1曲目に収録されているのはデビューシングルの「テイク・イット・イージー」なのだが、気楽にいこうというような意味を持つタイトルからしてすでに良い感じである。この曲は元々、ジャクソン・ブラウンがつくりはじめたものの完成できずにいたのだが、友人でもあったイーグルスのグレン・フライがひじょうに気に入り、一緒に曲を完成させたといわれている。イーグルスのバージョンはデビューシングルにして全米シングル・チャートで最高12位のヒットを記録したのだが、ジャクソン・ブラウンによるバージョンもリリースされている。
明石家さんまが若手の頃からレギュラー出演しているラジオ番組のエンディングテーマに、この曲をずっと使い続けている。放送日時と共に番組名も変わってきたのだが、ここしばらくは「ヤングタウン土曜日」である。
イーグルスは1972年のデビューアルバム「イーグルス・ファースト」から「ならず者」「オン・ザ・ボーダー」「呪われた夜」と毎年オリジナルアルバムをリリースしていたのだが、1975年にはニューアルバムではなく、このベストアルバムがリリースされた。
アメリカ西海岸の自由な感覚をなんとなく伝えるようなところもあり、当時の日本の若者たちのトレンドとも絶妙にマッチしていたのではないだろうか。コーラスやハーモニーが美しいところも、とても良い。パンク/ニュー・ウェイヴ的なアティテュードとはほぼ交わらないところがあるのははっきりしたのだが、これはこれでとても良いので認知しておきたい。
「華麗なるギャツビー」の作者として知られるアメリカの小説家、スコット・F・フィッツジェラルドの妻、ゼルダ・フィッツジェラルドをモチーフにしたといわれる「魔女のささやき」や全米シングル・チャートで1位に輝いた「至上の愛」「呪われた夜」など、やはり良い曲がたくさん収録されている。そして、暗かったり重くなりすぎていないところがとても聴きやすく、アメリカの大衆音楽という感じになっているようにも思える。