young woman listening to music in earphones in apartment

1986年の洋楽ロック&ポップス名曲ベスト20

日本ではバブル景気がはじまった年とされていて、新語・流行語大賞の流行語部門では「新人類」が受賞するのだが、受賞者は西武ライオンズの工藤公康、渡辺久信、清原和博(野々村文宏、中森明夫、田口賢司ではない)、ダイアナフィーバーや激辛ブームが起こり、石井明美「CHA-CHA-CHA」、中森明菜「DESIREー情熱ー」などがヒットしていたこの年、アメリカやイギリスなどでリリースされたポップ・ソングの中から重要と思われる20曲を選んでいきたい。

20. Velocity Girl – Primal Scream

プライマル・スクリームの2枚目のシングル「クリスタル・クレッセント」のB面に収録されていた曲で、「NME」が企画したコンピレーション・カセットテープ「C86」のA面1曲目である。この「C86」というカセットには当時のイギリスのインディー・ポップ・バンドによる楽曲がたくさん収録されていて、そういったタイプの音楽を好む人たちからはひじょうに好評だったようだ。

当時、メインストリームではシンセサイザーやドラムマシンを用いたサウンドや、ダンス・ミュージックやヒップホップの要素が入ったポップ・ミュージックがひじょうに流行っていたのだが、「C86」に収録されていた音楽というのはそれらに対するカウンターとでもいうのか、ジャングリーなギターやナイーヴなボーカルを特徴とするようなものであった。やがて「C86」はコンピレーションのタイトルから、特定のタイプの音楽をあらわすサブジャンル名でもあるかのように流通していくようになる。

では、その「C86」的な音楽というのはどういうものなのかというと、このわずか約72秒間の曲にそのエッセンスは凝縮されているといっても過言ではない。後に「スクリーマデリカ」のようなアルバムや「ロックス」のような楽曲を生み出すプライマル・スクリームだが、初期においてはこのようなキュートでシャイなインディー・ポップをやっていて、しかもものすごく良かったのである。

19. Into The Groove(y) – Ciccone Youth

チコーネ・ユースの正体はソニック・ユースで、バンド名はマドンナの本名に由来している。そして、これはマドンナの全英NO.1ヒット「イントゥ・ザ・グルーヴ」のカバー・バージョンである。メインストリームのポップ・アイコンで、ヒット曲を連発していたマドンナだが、そのルーツはニューヨークのアンダーグラウンドなシーンにもあり、社会に及ぼした影響もひじょうにオルタナティヴなものである。このカバーにも深いリスペクトが感じられ、インディー・ロック・バンドがメインストリームのヒット曲をやってみた的な安易さとは一線を画しているように思える。

18. Digging Your Scene – The Blow Monkeys

ザ・スタイル・カウンシルやシャーデーなどを聴いている音楽ファンに、ひじょうに人気があったような気がする。こういったタイプの音楽をいまではソフィスティ・ポップと呼んだりするが、当時はそんな言葉がまだなかったのではないだろうか。とてもお洒落な気分の曲だが、実はエイズをテーマにした深刻な内容が歌われている。この曲を収録したアルバム「アニマル・マジック」のレコードは、当時、北海道留萌市のレコード店などでも買うことができた。

17. La Isla Bonita – Madonna

マドンナの3作目のアルバム「トゥルー・ブルー」に収録され、後にシングル・カットもされた。ラテン音楽的なテイストに特徴があるこの曲は当初、マイケル・ジャクソンに持ち込まれたのだが却下されていたのだという。ボーカリストとしての表現力が高まってきた頃の、とても良い曲である。

16. Levi Stubbs’ Tears – Billy Bragg

ポール・ウェラーなどとも深い交流があった社会派フォーク・シンガーというのが当時のビリー・ブラッグのイメージだったが、日本でも「ニュージック・マガジン」などでやたらと高く評価されていた印象がある。タイトルのリーヴァイ・スタブスとはモータウンのグループ、フォー・トップスのボーカリストの名前である。夫からの暴力に遭うなど、厳しい境遇にある主人公の女性とポップ・ミュージックとの関係について歌われた、心に迫る名曲である。

15. Don’t Dream It’s Over – Crowded House

オーストラリア出身のバンド、クラウデッド・ハウスのヒット曲で、全米シングル・チャートでは最高2位を記録した。ビートルズからの影響がひじょうに強く感じられる音楽性で、それは当時けしてクールだとは見なされなかったのだが、ここまでのクオリティーだとさすがに抗うことが難しいポップ・ミュージックとしての強度になる。ベーシックな諦念がうっすらと漂っているような気はするのだが、それを前提とした上でのポジティヴなメッセージに、大人のポップスとしての深刻さを感じたりもする。

14. Human – The Human League

ヒューマン・リーグといえばエレ・ポップであり、「愛の残り火」のイメージがひじょうに強いわけだが、ジャム&ルイスがプロデュースしたこの楽曲では、サウンドもボーカルもマイルドになっている。テーマは浮気や不倫のようなものであり、しかもそれがお互いに対して行われているのだが、人間なのだから過ちもあるだろうということで、許し合うという内容である。言い訳としてはひじょうに弱いわけではあるのだが、人間そういうこともあるのも仕方なく、今日のような時代にこそこういう曲が必要とされているような気がしないでもない。全米シングル・チャートでは、「愛の残り火」以来の1位に輝いている。

13. Word Up – Cameo

ラリー・ブラックモンが率いるR&Bグループ、キャメオはプリンスにも通じるひじょうにユニークな音楽をやっていたのだが、ある時期まで日本ではカメオと表記されていたような気もする。クセがすごいボーカルとカッコいいサウンドが特徴的なこの曲は、イントロでエンリオ・モリコーネ的なフレーズも入っていたりしてとても良い。

12. Ain’t Nothin’ Goin’ On But The Rent – Gwen Guthrie

80年代R&B的なとてもカッコいいサウンドとボーカルも最高なのだが、歌われている内容が仕事をせずにお金がない恋人の男に対する不平不満というのが、リアリティーがあって素晴らしい。全英シングル・チャートでは、最高5位のヒットを記録した。

11. When I Think Of You – Janet Jackson

ジャネット・ジャクソンのアルバム「コントロール」からシングル・カットされ、全米シングル・チャートで初の1位に輝いた楽曲。静かめなイントロからはじまるのだが少しずつ盛り上がっていき、80年代ポップスの良いところを凝縮したような感じになっていくのがとても素晴らしい。

10. You Can Call Me Al – Paul Simon

アフリカ音楽の要素を取り入れたユニークな音楽性が高く評価され、ヒットもしたアルバム「グレイスランド」からの先行シングル曲である。ミッドライフ・クライシスこと中年期の危機をテーマにしながらも、タイトルはかつての妻と自分自身がパーティーで会った人に名前を間違えられたという内輪ネタが元になっている。イントロは小沢健二「ぼくらが旅に出る理由」に引用されたりもした。

9. Rise – Public Image Ltd.

セックス・ピストルズのジョニー・ロットンが脱退後、ジョン・ライドンとして結成したPILことパブリック・イメージ・リミテッドであり、いろいろ問題作をリリースしたりもしていたのだが、この曲は「アルバム」というタイトルのアルバムからの先行シングルで、全英シングル・チャートで最高11位を記録した。ジョン・ライドンのボーカルは唯一無比として、メンバーはすでにひじょうに流動的であり、この時期にはキーボードで坂本龍一が参加している。怒りはエネルギーである、というフレーズが繰り返され、とても印象的である。

8. Suburbia – Pet Shop Boys

「ウェスト・エンド・ガールズ」のヒットでブレイクしたペット・ショップ・ボーイズだが、メインストリームでも通用するタイプの音楽をやっていながら、ひじょうに批評的なセンスを持ち合わせて持ち合わせているのが特徴であった。タイトルの通り郊外をテーマにしたこの曲においても、たまらなくポップでキャッチーなメロディーに乗せて、社会批評のようなことが歌われていて、さらにはやるせなさのようなものを情緒的に感じさせたりするところもとにかくすごい。

7. Sledgehammer – Peter Gabriel

ピーター・ガブリエルのアルバム「SO」はものすごく評価が高かった上に売れまくりもしていたのだが、先行シングルのこの曲も全米シングル・チャートで1位になり、凝りまくったミュージックビデオもかなり話題になった。アーティスト名はガブリエルではなくゲイブリエルと表記するのが正しいと主張する日本のメディアもあり、それは個人的にはどちらでも良かったのだが、ピーター・ガブリエルをピーガブと略すのには乗り切れなかった。

6. Nasty – Janet Jackson

ジャクソン一家の末っ子、ジャネット・ジャクソンはすでにソロ・アーティストとして何枚かアルバムをリリースしていたのだが、いまひとつパッとしなかった。それで、プリンス人脈でもあるジャム&ルイスをプロデューサーに起用したアルバム「コントロール」なのだが、これがとにかく売れなくった。2枚目のシングルとしてカットされ、全米シングル・チャートで3位を記録した曲など、当時における旬な感じが良く出ているのに加え、そのポップ・ミュージックとしての強度のようなものは今日においても感じ取ることができる。

5. Bizarre Love Triangle – New Order

ニュー・オーダーの4作目のアルバム「ブラザーフッド」の収録曲で、後にシングル・カットもされた。インディー・ロックとダンス・ミュージックとの融合ということならば、マッドチェスター・ムーヴメントなどよりもずっと前にニュー・オーダーがすでにやっていたわけだが、この曲は特にポップでキャッチーで、しかも、気持ちがもうすでに冷めているにもかかわらず自分からは別れを切り出すことができない、という絶妙な感覚がヴィヴィッドに表現されていたりもする素晴らしい楽曲である。

4. Papa Don’t Preach – Madonna

アルバム「トゥルー・ブルー」からの先行シングルで、アメリカ、イギリスをはじめ様々な国々のシングル・チャートで当然のように1位に輝いた。未婚で妊娠をした若い女性と父親との関係性をテーマにした歌詞もひじょうに話題になったが、ダンス・ポップとしてのクオリティーの高さやよりソウルフルになったマドンナのボーカルなどがひじょうに魅力的である。

3. Walk This Way – Run D.M.C.

ラップがメインストリーム化していくにあたって、突破口となったようにも思える楽曲。エアロスミスの「ウォーク・ジス・ウェイ」をRUN D.M.C.がカバーしているのだが、エアロスミスからスティーヴン・タイラーとジョー・ペリーも参加している。全米シングル・チャートで最高4位のヒットを記録したことにより、ラップが一般的な音楽ファンにも広がっていくきっかけになったのと同時に、全盛期を過ぎたと見なされていたエアロスミスの人気も復活させることになった。

2. There Is A Light That Never Goes Out – The Smiths

3作目のアルバム「クイーン・イズ・デッド」の収録曲で、当時はシングル・カットされていないのだが、ファンの間でひじょうに人気が高く、時間が経つにつれてザ・スミスの代表曲的な扱いになっていった。自己憐憫と過剰なロマンティシズムを特徴とするモリッシーの歌詞とボーカルは、好きな人と一緒に乗っている車に10トントラックか2階建てバスが突っ込んできて、一緒に死ねたらなんて素敵なのだろう、というようなところまできている。ヴェルヴェット・アンダーグラウンドなどを思わせるサウンドや、効果的に用いられたストリングスなどもその世界観を強固なものにしている。

1. Kiss – Prince & The Revolution

批評家からの評価はずっと高かったのだが、1984年の「パープル・レイン」が大ヒットして、マイケル・ジャクソン、マドンナなどと並んで80年代を代表するポップ・アイコンとなったプリンスである。ほぼ毎年、新しいアルバムをリリースし続け、それらの多くが当時のポップ・ミュージックにおける最先端を更新するような内容であった。

アルバム「パレード」の先行シングルとしてリリースされたこの曲は、贅肉を徹底的に削ぎ落としたかのようなシンプルなサウンドでありながら、そこに強靭なファンクネスのようなものも感じられるという、すさまじいポップ・シングルであり、しかもこれが全米シングル・チャートで1位にも輝いたのであった。

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