ザ・スミスの名曲ベスト30 Pt.2 (20-11)

20. That Joke Isn’t Funny Anymore (1985)

ザ・スミスの2作目のアルバム「ミート・イズ・マーダー」は1985年2月11日にリリースされ、全英アルバム・チャートでバンドにとって初となる1位に輝いた。日本盤の帯には「肉喰うな!」のコピーが躍っていたように、菜食主義を訴える内容にもなっていた。

この曲はアルバム収録曲の中でも人気があったのだが、リリースから約5ヶ月後というなんとも微妙な時期にシングルカットされ、全英シングル・チャートでも最高49位と大きなヒットにはならなかった。レーベルもそれは分かっていたのだが、モリッシーがシングルカットを強く希望したことによって実現したのだという。

タイトルを直訳するとあのジョークはもう面白くないという感じになるのだが、そのジョークというのが、いまにも自ら死を選んでしまいかねないほどに追い詰められた人の深刻さのようなもので、ではなぜそれがもう笑えなくなってしまったかというと、そういった事態が自分自身に起こってしまったからといういかにもモリッシーらしい内容になっている。

19. Still Ill (1984)

ザ・スミスのデビューアルバム「ザ・スミス」に収録されている曲だが、その前の年にピール・セッションで演奏されたバージョンが「ハットフル・オブ・ホロウ」に収録されていて、イントロにハーモニカが入ったこちらを支持するファンも少なくはない。

これもまたいかにもモリッシーらしいタイトルだといえるが、当時のサッチャー政権に対する不満や失望に個人的なイノセンスの喪失が重ね合わされてもいて、陰鬱でありながらエネルギッシュなところがとても良い。

18. Last Night I Dreamt That Somebody Loved Me (1987)

ザ・スミスの4作目にして最後のオリジナルアルバム「ストレンジウェイズ、ヒア・ウィ・カム」から最後にシングルカットされ、全英シングル・チャートで最高30位を記録した。

アルバムバージョンでは冒頭にサッチャー政権時代の炭鉱ストライキの音声とピアノの演奏による約1分55秒間の導入があるが、7インチシングルバージョンではカットされている。ザ・スミスの楽曲の中でも特に絶望的ストレートなフレーズ(”No, hope, no harm/Just another false alarm”)を含み、このドラマティックな楽曲をモリッシーもジョニー・マーも個人的なお気に入りに挙げている。

17. The Headmaster Retual (1985)

「ミート・イズ・マーダー」は単に菜食主義を訴えたアルバムというよりは、暴力性や残虐さを肉食に象徴させているのであり、アルバムの1曲目に収録されたこの曲では学校における教師の暴力をテーマにしている。

イントロの時点でひじょうにインパクトの強いサウンドに加え、ヨーデルのように聴こえなくもない独特な歌い方にロックンロールのしゃくり上げ唱法的なものも入ったようなモリッシーのボーカル、「家に帰りたい」「こんなところにいたくない」という切実なメッセージなどどれをとっても素晴らしく、ザ・スミスならではだということができる。

16. Please, Please, Please Let Me Get What I Want

1984年のシングル「ウィリアム」のB面に収録された、ファンの間でひじょうに人気が高い曲であり、映画「プリティ・イン・ピンク」のサウンドトラックにも使われた。

メランコリックなギターの演奏に乗せて歌われるモリッシーのボーカルには、おそらく叶う可能性がひじょうに低いようにも思われる願いに含まれた諦念と一縷の望みのようなものが感じられ、美しくも切ないバラードに仕上がっている。

15. Girlfriend In A Coma (1987)

アルバム「ストレンジウェイズ、ヒア・ウィ・カム」から先行シングルとしてリリースされ、全英シングル・チャートで最高13位を記録した。

タイトルにもあるようにガールフレンドは昏睡状態であり、それは深刻な問題ではあるのだが、曲調には軽快さすら感じられる。はっきりとしたメッセージを発するのではなく、そういった絶妙に微妙な状況というのは現実的に実際にあるということを提示しているようにも感じられ、そこがとてもリアルなのである。

このシングルのB面にはモリッシーの希望でシラ・ブラック「ワーク・イズ・ア・フォーレター・ワード」のカバーが収録されたが、これに嫌気がさしたことがジョニー・マーの脱退、バンド解散に至る大きな引き金になったといわれている。

14. William, It Was Really Nothing (1984)

1984年の夏にシングルとしてリリースされ、全英シングル・チャートで最高17位を記録し、「ハットフル・オブ・ホロウ」にも後に収録された。

シンセポップ全盛の時代にネオ・アコースティック的な音楽はむしろ新鮮に感じられ、そこにパンク魂のようなものを感じたりもしたのだが、ザ・スミスのこの曲などもはじめはそのようなタイプの音楽なのではないかと思わせるようなところがあった。確かにサウンドはとても爽やかでネオ・アコースティック的でもあるのだが、ボーカルがそれほど爽やかではない。そこにどうにも違和感を感じてもいたのだが、そこが良いのだと気がつくまではそれほど時間を要しなかった。

これだけポップでキャッチーな楽曲でありながら、歌われている内容は結婚という概念に対しての疑念であり、自分自身の他の誰に対しても夢を見ないという宣言である。これ自体が世俗のラヴソングに対してのアンチテーゼにもなっていた。

13. Ask (1986)

オリジナルアルバムには未収録のシングルであり、全英シングル・チャートで最高14位を記録した。それも納得のポップでキャッチーな楽曲であり、「シャイでいることってナイスだよね」というような最初のフレーズからもう素晴らしい。

間奏にはカモメの鳴き声のような効果音が入っていたり、「自然は言語なんだ。君には読めるかな?」というような素敵フレーズもある。かと思えば、もしも愛ではないとするならば、爆弾が僕らを一緒にするなどという言い回しもあったりして、やはり独特なのであった。

12. Cemetry Gates (1986)

ザ・スミスの3作目のアルバム「クイーン・イズ・デッド」の収録曲で、このバンドにしてはわりと明るめだといえる。

晴れた夏の日に墓地を訪ねるという内容なのだが、キーツやイェーツといったイギリスロマン派の詩人の名前が出てきたり、有名な詩をこっそりパクるお茶目さもあったりして、芸術讃歌にもなっている。

この曲はモリッシーの数少ない親友である5歳年上の女性、リンダ・スターリングとマンチェスターの墓地を散歩した時の思い出がベースになっているといわれている。

11. I Know It’s Over (1986)

アルバム「クイーン・イズ・デッド」に収録された、一方でこちらはとても暗い曲である。

「あー母さん、頭に泥がかぶせられるよ」という歌い出しではじまり、もうたくさんであり終わっていて他に行き場もないということが延々とメランコリックなサウンドとメロディーに乗せて歌われていく。これぞ、モリッシーでありザ・スミスの真骨頂とでもいうべき楽曲である。

あなたがそんなに面白い人だというのなら、どうして今夜ひとりぼっちなの?というような痛ましい問いが続けざまに発せられ、愛はナチュラルでリアルだが、君や僕のためのものではない、などとも歌われる。孤独や悲しみの果てのカタルシスとでもいうようなものが、ある種の美的イメージとして結晶化しているようにも思える。