深田恭子「イージーライダー」について。

女優の深田恭子がかつてCDを出していたことをナウなヤングのどの程度が知っているかは定かではないし、現状、各種ストリーミングサービスで配信されていないわりに、中古CDも高くはない。今回、取り上げる「イージーライダー」のCDシングルなどいまAmazonで検索したところ、95円+送料250円である。それはそうとして、この「イージーライダー」という曲はとても良いのである。

「イージーライダー」というタイトルからは、あのアメリカン・ニューシネマ、ハーレーダビッドソンに乗った男達とそのバックで流れるステッペンウルフ「ワイルドで行こう」が思い浮かぶのだが、あの曲はある世代にとってはお笑いユニット、超新塾のテーマソングとしてのイメージが強いようだ。また、奥田民生が「イージュー★ライダー」という曲を1996年にリリースしているが、「イージー」ではなく「イージュー」の意味は業界用語で30(E10)のことらしい。このシングルがリリースされた頃、奥田民生は31歳になったばかりで、この前にリリースしたアルバムのタイトルは「30」であった。

この曲のどこが良いかというと、フィリーソウルを思わせるストリングスとビートがカジュアルに旅情をかき立て、夏から秋へというこの気分が落ちて淋しくて仕方がない季節を、それほど悪くはないのではないかと感じさせてくれるところである。また、深田恭子のボーカルはいわゆる技術的にとても上手い歌というわけではないのだが、存在感がすさまじく、とても印象的なのである。そして、歌詞の内容なのだが、大人しそうに見えた女性が実は内面的には大胆であったというような、文系男子のファンタジーに全力でお応えしたようなものになっていて、ここもまたたまらないわけである。「あなたってもっと本当は 大胆って思ってた」であり、「倫理や論理など振りかざす前に きつく抱きしめてよ 今すぐ」なわけである。

それと、個人的にツボなのは「永遠」問題に対するスタンスである。「永遠」について歌われたポップ・ソングには素晴らしいものが多く、私も大好きだったりそうでもなかったりはするわけだが、個人的にこの概念というのは信用のならないものだと考えている。それは、個人的にこれまで生きてきた人生において、これは「永遠」なのではないかと思っていたものや人のことを、いつでもすっかり忘れてしまうからである。しかし、それを信じる心そのものは素晴らしく美しいものであり、どこかでもしかすると私がまだ本物のそれに出会えていないだけで、実はちゃんと存在しているのではないか、というような期待がまったくないというわけでもない。できれば、そうであってほしいし、その方が夢や希望があるというものである。とはいえ、ベーシックにはまったく信じてはいないし、そんな自分は何か大切なものを決定的に失くしてしまったのかもしれない、というような悲しみもある。

しかし、「イージーライダー」で深田恭子は歌うのである。「永遠って言ってたって なんだって終わるでしょ 始まってずっと続く 恋なんて信じられない」と。

その他、いろいろなあざといことなども歌われているのだが、それらのすべてがことごとく汚れたハートにクリティカルヒットする。いや、これは本当に最高である。作曲・編曲はPLAGUESの深沼元昭が手がけていて、角川文庫のCMソングとしても使われていたらしい。発売されたのは1999年9月1日であり、この2週間前にはサニーデイ・サービスの「スロウライダー」とうこれもまた素晴らしいシングルがリリースされていて、この2曲を私は勝手に1999年のライダーシリーズと呼んでいる。