「M-1グランプリ2019準決勝ライブ・ビューイング」とファイナリスト発表について。

「M-1グランプリ2019」では大会初の試みとして、全国各地の映画館で準決勝のライブ・ビューイングが行われた。例年、「M-1グランプリ」では準決勝が一番充実しているのではないかと思っているのだが、チケットはすぐに売り切れている。これが今年はライブ・ビューイングで観ることができるということで、もしも行けたら行きたいとは思っていたのだが、仕事との兼ね合いでどうなるかが分からなかった。

当日の早朝、帰宅するために電車に乗っていて、iPhoneで調べていたのだが、準決勝そのものは17時からなのだが、ライブ・ビューイングは19時からだという。生中継ではなく、録画されたものを流すのである。ライブ・ビューイングというのは生中継なのだとばかり思っていたのだが、必ずしもそうとは限らないようだ。いずれにしても、この時刻の方が個人的にも都合が良い。それにしても全国各地、思ったよりも多くの映画館で行われるようだ。それだけニーズがあるということなのだろう。自宅から最も近く、通勤定期券の範囲内だったのは調布なのだが、検索してもチケット購入画面のようなものが出て来ないので、おそらく売り切れているのだろうということにして、次に多摩センターのイオンシネマを見てみた。

チケット購入画面は出て来たが、かなり前の方と後ろの方を除いては売り切れている。やはりかなりの人気なのだ。この時点で仕事が入っていなかったので、思い切って購入した。

最近、異動したばかりの仕事場からよく分からない電車を乗り継いだりして、少し早めに京王多摩センター駅に着いた。ここはイルミネーションが少し有名で、かなり以前に見に来たこともあった。また、サンリオピューロランドの最寄り駅でもあり、それっぽい雰囲気もある。とりあえず地に足が着いているといえる地点に下りて、iPhoneのGoogleマップを起動しながら、会場のイオンシネマ多摩センターに向かった。駅から徒歩6分ということで、近くまで来たのだが、そんな気配がまったくない。それで行ったり来たりしているうちに開始時刻も近づいて、焦りも感じはじめていた。人に聞いたりしてなんとかたどり着くことができたのだが、そもそも地に足が着いている気がする地点まで下りる必要はまったくなかったのだ。多摩センター駅の前は、駅の改札から続く、地上に浮かんだ部分がずっとキラキラしていて、行きたいところへはそこから下りずに行けることが多いようであった。

メールで送られたQRコードを券売機にかざすのだがうまく読み取れなかったので、予約番号を手入力してようやく発券、会場であるスクリーン8に入った。座席はほとんど埋まっていて、客層は老若男女さまざまである。雰囲気はミーハーすぎもしなければ、マニアックすぎもしない、ちょうどいい感じのように思えた。

「M-1グランプリ2019」の準決勝には25組が進出し、それからGyaOの動画視聴回数で1組がワイルドカードとして追加された。バランスも絶妙で、納得の25組という感じであった。

MCははりけ~んずであり、前説も含め、劇場と同じ尺でそれを堪能できたことによって、「M-1グランプリ」の予選を観ているのだという実感が湧いてきた。

ライブ・ビューイングというのは、劇場さながらに拍手をしたりもして盛り上がるのかと思っていたのだが、今回についていえばけしてそうでもなかった。しかし、特によくウケたネタでは笑い声が大きくなったり、拍手が起こったりしていたので、ネタは真剣に視聴されていたと思われる。

私は最後列のわりと端の方の席だったのだが、最近の映画館らしくしっかりとスクリーン全体を観ることができた。客席がすり鉢状になっているので、前の席に座高の高い人が座ったがためにスクリーンがよく見えないという心配もまったく無い。

この環境で、極上の漫才のネタがいくつも観られるなんて最高ではないかと思ったのだが、まったくその通りであった。

準決勝に進出した25組には有名だったり無名だったり、若手だったり中堅だったりがバランス良く選ばれ、しかも順当だと思えた。ライブ・ビューイングに来ていた客も、純粋にお笑いが好きな人が多かった印象で、有名、無名にかかわらず、面白いネタの面白い部分で笑っていたという印象である。

からし蓮根、ミルクボーイは今回の準決勝進出した組の中でも私が個人的に好きな2組なのだが、関東ではそれほど知名度があるともいえず、それでもかなりの笑いが起こっていて、とてもうれしかった。

ネタの内容について書くことは禁じられているのでもちろん書かないのだが、どの組も面白く、漫才といってもいろいろなタイプがあるな、という印象である。

私は普段、よしもとクリエイティブエージェンシー所属の芸人を中心にお笑いを観ているのだが、サンミュージック所属のぺこぱのネタはとても面白かった。キャラクターやシステムがはっきりした漫才ではあるのだが、そこにメッセージ性が感じられるのと、嫌な感じがまったくしないところがとても良いと思った。

それから、昨年、ファイナリストとして爪跡を残したトム・ブラウンのネタは、そもそもひじょうに飛び道具的なシステムを持つ漫才なのだが、そのオリジナリティー溢れる路線は継続されながら、さらに複雑怪奇度を増し、それでいてポップだというすさまじさを感じ、これは2年連続ファイナルでもじゅうぶんに納得であり、ぺこぱとトム・ブラウンと、よしもとクリエイティブ・エージェンシー以外が2組でも別に良いのではないかと思ったのであった。

よしもとクリエイティブ・エージェンシー以外の所属というところでいうと、カミナリ、東京ホテイソンもこれまでのオリジナルなシステムから、さらなる進化を感じさせた。

あと、ミキはデビューしてからそれほど経っていなかった頃にすごく面白いと思ってかなり好きだったのだが、実は個人的にはここ数年、わりと飽きていたことと、過大評価されすぎているのではないかと思えるところもあったのだが、今回は間合いも含め、従来のフォーマットながら、格段の進化を感じ、これならばファイナル進出しても文句はまったくないと思っいた。

天竺鼠は大好きであり、今年はラストイヤーだということもあって、ファイナル進出してほしいという気持ちはかなり強かった。いかにも天竺鼠らしい、従来の漫才のフォーマットを脱構築したネタで、ライブビューイング会場でもかなりの笑いが起きていた。しかし、今回、漫才というフォーマットをそれえほど脱構築をしていないが、それでも圧倒的な強度を持った組でありネタがあまりにも多かった。天竺鼠は日本のお笑い界における至宝だと思うのだが、「M-1グランプリ」で一度もファイナルに進出できなかったということも、わりとその箔たりえるのかなということも、なんとなく思った。

同じくラストイヤーであるかまいたちは、それでも圧倒的である。従来の漫才というフォーマットに留まりつつ、その中で演劇性だったりサイコパス感覚といった、得意とするところを最大限に発揮したようなところが感じられ、素晴らしいと思った。ある程度の知名度であったりそれに伴う収入があると思われる組となると、より無名な人たちに比べると、切実さがより薄まるという側面がある。しかし、かまいたちには本気を感じた。昨年で「M-1グランプリ」は最後にしようと一度は決めていてたかまいたちが、やはりラストイヤーに出場することを決めた。そして、マックス値で本気を出してきてえいるように見える。

本当にどの組も素晴らしかった。楽しかったなと思い、会場を後にした。この後、GyaOでファイナル進出者が発表されるという。電車に乗り、アプリを起動したままで待った。そして、視聴した。

驚いた。ファイナル進出の9組中7組が初進出である。運営側に明らかな意図があったのだろうか。コンテンツとしては、より知名度がある組を進出させた方が、いろいろとメリットは大きいのだろう。それでも、和牛、ミキといった、人気や知名度もあり、準決勝のネタもちゃんと面白かったコンビを落とし、その分、それよりも無名なコンビを上げてきた意図というのは、確実に存在したような気がする。

準決勝をライブビューイングで観ていた時点で、和牛、ミキ、それから、トム・ブラウンあたりも残るのではないかと思っていた。和牛のネタはとても構成がしっかりしていて、ムダがなく、さすがだと感心させられた。もちろんファイナルには進出するのだろうと思っていた。なにせ、過去3大会連続で準優勝である。ファイナル進出はもちろんであり、問題はそこから優勝できるかどうか、という感じであった。今回、和牛のネタが面白くなかったとか、劣化したとかいうことはまったく感じられなかった。とてもスマートで上品で、それでもしっかり笑いをとってくる、これはもう一つのアートフォームだなと思えるほどだったのだが、「M-1グランプリ2019」の運営としては、それよりも完成度が低く、やや粗けずりだったとしても、発想としての面白さがあれえば、よりそちらの方を高く評価するというようなところが、あったような気もする。

昨年に続いてファイナル進出したのは、かまいたちと見取り図だけである。この2組はファイナリスト経験者ではあるが、その実績に甘えることなく、大きな進化であったり明確な地力を発揮したように思える。

インディアンス、ミルクボーイ、ぺこぱ、オズワルド、からし蓮根、ニューヨーク、すゑひろがりずといった、ファイナル初進出組については、オリジナリティーや発想の部分が評価されたように思える。2010年に一旦は終了したが、2015年に再開された「M-1グランプリ」は、その出場資格を結成10年から15年に延ばした。それによって、以前よりも技術力が重視されるようになった感じはあった。しかし、「M-1グランプリ」の本来の魅力とは、無名時代の麒麟、笑い飯、千鳥らにスポットを当てたような、発想力重視の部分でもあったように思える。「M-1グランプリ」の出場資格は現在も結成15年以内のままだが、今回の結果を見るに、より発想力が重視されているようにも思える。

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