ミルクボーイという漫才コンビについて。

先日、「M-1グランプリ2019」の準決勝進出者が発表されたが、その25組の中にミルクボーイというコンビが選ばれていた。

「M-1グランプリ」が一旦終了する前の最後の年、2010年の大会で結成4年目にして準々決勝に進出していた。独自のシステムに則った漫才スタイルがユニークであると同時に、若手ながらどこか懐かしさも感じさせられた。それから関西のローカル番組などで何度かネタを観たのだが、基本的には同じシステムの漫才を継続していた。ボケの駒場孝はボディービルをやっていて、そのような特徴を生かしたコーナーや企画に出演しているのを観たこともあった。

「M-1グランプリ」が復活した2015年には3回戦まで、2016年からは3年連続で準々決勝どまりであった。「M-1グランプリ」の予選動画がGyaOで配信し、熱心なお笑いファンはその何百本ものネタをすべて観るための時間を捻出することになるのだが、今年は間にCMが入らなくなったのでとても助かっている。きつねどん兵衛やグランブルーファンタジー、ファミリーマートのクリスマスのCMを過去に何十回観たことだろうか。

昨年もミルクボーイは準々決勝まで進出していたので、GyaOの配信でいくつかのネタを観ることができた。漫才のシステムは従来とほぼ変わっていないように思われた。

ボケの駒場が母親(おかん)が好きな食べ物や娯楽のことをどうしても思い出せないと言っている、というところからネタははじまる。そして、ツッコミの内海崇がそれを一緒に考えてあげるから、どのような特徴を言っていたか教えてみてよ、というようなことを言う。駒場が「おかんが言うにはな」と、その思い出せない何ものかの特徴にいて話すのだが、それに対し内海が「〇〇やないか。〇〇に決まりやがな」と言う。しかし、駒場は「分からへんねんな。俺も〇〇と思ってんけどな、おかんが言うには」と、また別の特徴を話すと、内海が「ほな、〇〇ちゃうか」と、ほぼこれの繰り返しである。

これのどこがそんなに面白いのかというと、駒場が話すおかんが思い出せない何ものかの特徴の絶妙なあるある加減と、それに対する内海のツッコミのワードセンスである。それ以前にそもそも、角刈りにダブルスーツのツッコミと、短髪でマッチョのボケの二人組がミルクボーイというコンビ名を名乗っていること自体が、すでに面白い。たまにGoogleでミルクボーイを検索しようとするのだが、原宿にあるアパレルブランドの検索結果しか出ないため、「お笑い」という検索ワードを追加することになる。

昨年の「M-1グランプリ」の予選で、私が視聴した動画では「SASUKE」と「たません」をテーマにしていた。たませんとはえびせんべいに卵をのせたものらしく、縁日の屋台で売られているようなのだが、私はその存在をまったく知らなかった。関西では有名なのかと思い、検索してみると、名古屋の商店街にある屋台の動画が出てきて、なおさら分からなくなった。いつも通りのミルクボーイらしいネタだなと思っていたのだが、このたませんの件があっただけに、例年以上に強く印象に残った。それで、当時、一緒に仕事をしていた若者に動画を観せたところ、このシステムはすごい発明だ、露出さえ増えれば売れるのではないか、などと絶賛していて驚いた。私はこのシステムでのミルクボーイの漫才に慣れてしまっていて、それほどすごいとは思っていなかったのである。

その後、YouTubeにミルクボーイが結構な数のネタ動画をアップロードしているのを知り、順番に観ているうちになんだかハマってしまい、全部観たのはもちろんのこと、また観たくなって再生することも多くなった。

ミルクボーイが過去にネタの題材にしたのは、「サイゼリヤ」「デカビタ」「湯葉」「競歩」「滋賀」「腹話術」「演歌」「あやとり」など、いずれも絶妙なものばかりである。「できる男」についてのネタにおいては、「スタバでパソコン」をやっているというイメージに対し、「不二家でワープロ」というキラーフレーズが登場し、初めはそれほどウケていないのだが、しつこいぐらいに何度も繰り返し言われているうちに面白くなっていった。10月には「第8回関西演芸しゃべくり話芸大賞」において、「モナカ」を題材にしたネタでグランプリを獲得した。システムはほぼ変わっていないのだが、ワードのチョイスや間合いなどが進化しているように感じられた。そして、「M-1グランプリ2019」の3回戦においては「コーンフレーク」を題材としたネタをやっているのだが、これもまた面白く、会場もかなり沸いているようであった。

この約一年でミルクボーイのことはかなり好きになったのだが、このようなシステム漫才はそれゆえの限界というのもあるような気もして、「M-1グランプリ」のようなコンクールでは評価されるのが難しいのではないかという気がしていた。しかし、たとえ同じシステムやフォーマットであったとしても、研ぎ澄ましていくことでどんどん面白くなるのだということを思い知らされた。準決勝戦は12月4日に行われ、出場者はいずれも実力者揃いのため、決勝進出は容易ではないと思うが、もしもここを勝ち抜けば、ミルクボーイの漫才がゴールデンタイムの全国ネットで観られるということになり、それはとても痛快なことだと思うのである。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です