ザ・クラッシュの名曲ベスト30(30-21)

1977年3月18日にデビューシングル「白い暴動(原題:White Riot)」をリリースしたザ・クラッシュの楽曲から、特にこれは名曲なのではないかと思える30曲をあげていく回である。当初はコンパクトにベスト10にする予定ではじめたのだが、リスト作成のために聴き直していて、これは最低でも20曲は必要だろうとなり、最終的には30曲になった。活動期間は約10年間で、オリジナルアルバムがは作だが、その間にリリースされたシングルにも良いものがとても多いのと、音楽性がかなり変化して、しかも主要メンバーが脱退する以前まではクオリティーもずっと高く、後のポップミュージックにあたえた影響もひじょうに高い。というわけで、泣きながら選んだ30曲なのだが、さっそくはじめていきたいと思う。

30. 1977 (1977)

ザ・クラッシュのデビューシングル「白い暴動」のB面に収録された曲で、「エルヴィスもビートルズもローリング・ストーンズもいない、1977年には」というフレーズがよく引用されがちである。70年代後半の時点で産業化、肥大化していたロックミュージック界において、ロックンロール黎明期のような原初的な衝動のようなものを取り戻したのがパンクロックである、などとポップミュージック史においてはよく語られるが、それを象徴するような楽曲だともいえる。

29. I’m So Bored With The U.S.A. (1977)

ザ・クラッシュのデビューアルバム「白い暴動(原題:The Clash)」に収録された曲である。元々はミック・ジョーンズが当時のガールフレンドについて書いた曲であり、「I’m so bored with you」と歌われるはずだったのだが、ジョー・ストラマーがその後に「S.A.」と付け加えたことによって、アメリカ的な消費文化に対するカウンター的な楽曲になった。邦題は「反アメリカ」というなかなか直球なものだが、実際にはアメリカそのものというよりは、アメリカナイズされていくイギリスを憂いているというようなニュアンスだろうか。リバティーンズ「タイム・フォー・ヒーローズ」における、野球帽をかぶったイギリス人に対するまなざしにも近いものがあるかもしれない。

この曲で標的にされているアメリカにおいて、「白い暴動」はイギリスと同じ1977年には発売されず、2年後の1979年になってからはじめて、内容がイギリス盤とは若干異なったかたちで発売されることになった。

28. Janie Jones (1977)

デビューアルバム「白い暴動」の1曲目に収録された曲である。イントロのドラムがひじょうに印象的である。当時のドラマーはトッパー・ヒードンではなく、テリー・チャイムズだったが、アルバムリリース時にはすでに脱退していて、ジャケットにはジョー・ストラマー、ミック・ジョーンズ、ポール・シムノンの3名のみが写っている。しかも、クレジットにおいては、テリー・チャイムズではなくトーリー・クライムズ、つまり保守(トーリー)党の犯罪とおそらくわざと間違えられている。

タイトルの「ジェニー・ジョーンズ」とはかつてイギリスのポップシンガーとして活動していたが、70年代に売春組織を運営していたということで逮捕されたことで話題になった人だということである。この曲は、ジョー・ストラマーがそんな彼女に敬意を表してつくったものだといわれている。

27. This Is Radio Clash (1981)

アルバムでいうと「サンディニスタ!」と「コンバット・ロック」の間にリリースされたシングルで、どちらにも収録されていない。ヒップホップやファンクが取り入れられた刺激的なロックチューンであり、MTVが開局した年に撮影されたミュージックビデオも、当時のストリート感覚を真空パックしているかのようでとてもカッコいい。全英シングル・チャートでは最高47位であった。

26. Armagideon Time (1979)

「ロンドン・コーリング」のシングルB面に収録された、ジャマイカのレゲエミュージシャン、ウィリー・ウィリアムスのカバー曲である。こういったアーティストのベストソング的なリストにおいては、できるだけカバー曲よりもオリジナル曲の方を重点的に取り上げるべきなのではないかとは思うのだが、ザ・クラッシュの場合はレゲエの曲をカバーしているケースが多く、しかも完全に自分たちのスタイルで再構築してもいることから、結果的にオリジナル曲と同等かそれ以上のオリジナリティーを実現していたりもする。それで、おそらくこの後もいくつか出てはくるのだが、まずはダブ的なサウンドが不穏にカッいいこの曲である。

25. Garageland (1977)

「白い暴動」のアルバム最後に収録された曲である。このアルバムにおいてはレゲエのカバーなどもあるものの、トータル的にはよりストレートなパンクロック色が濃い。というか、パンクロックの真髄とでもいうべきエッセンスが凝縮された素晴らしいアルバムである。ザ・クラッシュは活動初期に出演したライブにおいて、ロックジャーナリストのチャールズ・シャー・マレーからガレージバンドにすぎないと酷評されたのだが、この曲においてはその論評を逆手に取って、誇らしく歌い上げている。これは酷評に対する、最高にクールなアンサーだといえる。こういったセンスも、ザ・クラッシュは最高である。

24. Lost In The Supermarket (1979)

ザ・クラッシュのすべてのアルバムのうちで、一般的に最も評価が高い「ロンドン・コーリング」に収録された曲である。CDでは1枚ものとして発売されているが、アナログレコードの時代は2枚組であった。それでも、1枚ものと同じ価格でリリースしたこともよく知られている。音楽性がよりバラエティーにとみ、そこが高く評価されているところでもあるのだが、この曲などはひじょうにポップでキャッチーでありながら、どこか哀愁も感じさせるところがとても良い。

ミック・ジョーンズがリードボーカルをとっているが、この曲を書いたのはジョー・ストラマーで、歌詞の題材となっているスーパーマーケットは近所にあったインターナショナルというチェーン店のようだ。急激にコマーシャル化していく社会に対する、戸惑いや抵抗のようなものがテーマになっている。

23. Career Opportunities (1977)

「白い暴動」のアルバムに収録された曲で、邦題は「出世のチャンス」である。当時のイギリスにおける不景気や就職難を反映した内容になっていて、歌詞に出てくる郵便物に爆弾が仕掛けられているかどうかを確認する仕事は、実際にかつてミック・ジョーンズがやっていたものだという。

「サンディニスタ!」にはこの曲の別バージョンが収録され、イアン・デューリー&ザ・ブロックヘッズのキーボーディスト、ミッキー・ギャラガーの息子たちがボーカルをとっている。

22. Police On My Back (1980)

ザ・クラッシュの4作目のアルバム「サンディニスタ!」に収録された曲である。アナログレコードでは2枚組であった「ロンドン・コーリング」の翌年に早くもリリースされたこのアルバムは、なんと3枚組の大ヴォリュームであったが、価格はまたしても据え置かれたといわれている。当時は評価がそれほど芳しくはなく、全英アルバムチャートにおける最高位も「ロンドン・コーリング」を下回っていたのだが、時が過ぎゆくにつれ、実はかなり良かったのではないかと評価され直されがちな印象もある。

楽曲のタイプはよりバラエティーにとんでいるのだが、当時は玉石混交と捉えられていたのが、次第にそれもまた乙なものとされてきたような気もする。ところで、そんな「サンディニスタ!」のアナログレコードではサイド4の1曲目に収録されたこの曲は、エディ・グラントが所属していたジ・イコールズというバンドのカバーである。そして、これもまたザ・クラッシュのオリジナルであるかのような独自色に染め上げられている。警官から追われているという内容の曲なのだが、ミック・ジョーンズのギターがパトカーのサイレンのような効果をもたらしていることなども含め、緊張感がありながらもたまらなくキャッチーなところがとても良い。

21. Spanish Bombs (1979)

これもまた、ポップミュージック史に残る歴史的名盤「ロンドン・コーリング」に収録された、ポップでキャッチーでありながら哀愁がただよっているタイプの曲であり、邦題が「スペイン戦争」であるように、1930年代のスペイン内戦をテーマにしている。

戦争の生々しい悲惨さと観光客のお気楽な感じとを対比させるという、ジョー・ストラマーの作詞家としての才能が冴えまくった楽曲でもある。