吉田美奈子の名曲ベスト10

吉田美奈子は1953年4月7日、埼玉県に生まれ、高校生の頃には東京キッドブラザーズのミュージカルでにペーター佐藤とのデュエットで出演していた。その後、はっぴいえんどのライブにキーボーディストとして参加したり、大滝詠一「指切り」のフルート演奏でレコードデビューを果たしたりした後、和製キャロル・キング、ローラ・ニーロ的なシンガーソングライターアルバム「扉の冬」を細野晴臣のプロデュースでリリースする。レーベル移籍後は今日でいうところのシティ・ポップ的な音楽性に変化し、山下達郎の共作者としても知られるようになっていく。シティ・ポップリバイバルにおいて、ジャンルの重要アーティストの1人としても再評価される吉田美奈子の楽曲から、これは特に名曲なのではないかと思える10曲を挙げていきたい。

10. 外はみんな (1973)

はっぴいえんどの最後のライブが行われた1973年9月21日、そのオープニングでパフォーマンスを披露してもいた吉田美奈子のデビューアルバム「扉の冬」がリリースされた。細野晴臣がプロデュースしたこのアルバムは、和製キャロル・キング的なシンガー・ソングライターアルバムではあったのだが、当時のレコードの帯に印刷されていたコピーが「幻の天才少女キャラメル・ママと共にベールをぬいで今ここに登場!!」であったように、早くもひじょうに注目されていたようである。アルバムの1曲目に収録されたこの曲はアレサ・フランクリンの「ロック・ステディ」から影響を受けたともいわれ、シンガー・ソングライターでありながら、特にホーンの使い方などにソウルミュージック的なエッセンスを感じさせる。

9. レインボー・シー・ライン (1975)

RCAに移籍して1作目のアルバムとなった「MINAKO」には、細野晴臣「ろっかまいべいびい」、荒井由実「チャイニーズ・スープ」をはじめ、カバー曲や提供曲も多く収録されていた。佐藤博によって提供されたこの曲は、後にアルバム「SUPER MARKET」でセルフカバーもされている。タイトルがあらわしているように、海をテーマにした都会的な楽曲で、ティン・パン・アレーのシティ・ポップ的な演奏と吉田美奈子の自由度を増したボーカルが絶妙にマッチしている。

8. LIGHT’N UP (1982)

山下達郎「FOR YOU」がリリースされた1982年にリリースされた吉田美奈子の9作目のアルバムで、シティ・ポップ的なセルフプロデュース作品となっている。アルバムの1曲目に収録されたこの表題曲においては、デヴィッド・サンボーンによるアルトサックスをはじめ、清水靖晃によるホーンアレンジと、レオン・ペンダーヴィスによるストリングスアレンジが冴えまくっている。

7. MONSTER STOMP (1981)

8作目のスタジオアルバム「MONSTER IN TOWN」のアナログレコードでは、B面の1曲目に収録されていた曲である。吉田美奈子のファンクの女王などとも呼ばれていた側面を象徴するような楽曲であり、都会的な洗練のみならず、ファンキーな強靭さをも感じさせるとてもカッコいい曲である。

6. 扉の冬 (1973)

全曲が自作曲であったデビューアルバム「扉の冬」の表題曲で、「ねこ」とのカップリングでシングルカットもされた。後のシティ・ポップ的な作品と比べると、よりシンガー・ソングライター的であり、吉田美奈子のピアノ弾き語りに、キャラメル・ママのメンバーが演奏をつけているという感じである。「幻の天才少女」とも呼ばれた才気が、すでにヴィヴィッドに感じられる。同じくキャラメル・ママのバッキングによる荒井由実のデビューアルバム「ひこうき雲」がリリースされたのもこの年であり、オリコン年間シングルランキングの上位には、宮史郎とぴんからトリオ「女のみち」「女のねがい」、ガロ「学生街の喫茶店」、ちあきなおみ「喝采」、沢田研二「危険なふたり」、かぐや姫「神田川」、チューリップ「心の旅」などがランクインしていた。

5. 愛は思うまま (1978)

「LET’S DO ITー愛は思うままー」のアルバムの表題曲であり、シングルカットもされた。レーベルの社長でもあった村井邦彦がジーン・ページと契約していたことにより、あらかじめ路線がある程度は決められていて、そのためにセルフプロデュースから離れたわりと気乗りはしないのだが、それでも決められた範囲内でちゃんとやった、というような作品になったようである。とはいえ、仕上がりは素晴らしく、ポップでキャッチーなメロディーと美しいストリングスをはじめとするサウンドが、シティ・ポップ化しつつある当時の一般大衆的な気分にもマッチしていたように思える。

4. 夢で逢えたら (1976)

大滝詠一が作詞・作曲し、いまやスタンダードにもなった楽曲であり、80以上にも及ぶカバーバージョンが確認されている。元々はアン・ルイスのためにつくられたのだが、当時のイメージに合わないということで却下されたようだ。シリア・ポールによるバージョンが有名であったが、最も初期のバージョンは吉田美奈子の歌唱によるものとされている。アルバム「FLAPPER」に収録されていたが、シングルカットはされていない。吉田美奈子の典型的な音楽性とはやや離れたフィル・スペクター的な楽曲だが、オリジナリティーはじゅうぶんに発揮されていて、ディフィニティヴなバージョンと呼ぶに相応しい内容になっている。

3. TOWN (1981)

「MONSTER IN TOWN」のアルバム1曲目に収録された、ファンキーでとてもカッコいい曲である。ストリングスアレンジは山下達郎であり、都会の活気やにぎわいのようなものがヴィヴィッドに描かれたような楽曲になっている。シティ・ポップと呼ぶに相応しい楽曲ではあるのだが、シュガー・ベイブ「DOWN TOWN」と同様に、「CITY」ではなく「TOWN」であるところにより人間味を感じたりもするのは、おそらく気のせいである。

2. 恋は流星 (1977)

「TWILIGHT ZONE」というのがアルバムタイトルだが、吉田美奈子の音楽にはトワイライト、つまり黄昏のイメージがひじょうに強い。山下達郎との共同プロデュースとなるこのアルバムにおいては、ソウルやジャズ、ゴスペルといった音楽からの影響を受けた作品づくりがわりと自由に行うことができたということである。収録曲の中でもその真価が最も発揮されているといえるのが、アナログレコードではA面のラストに収録されたこの曲であろう。「とても素敵 夜の気配に」という歌い出しからすでに心をつかまれるわけだが、シティ・ポップとは一体どのような音楽のことなのか、という問いに対する簡潔な回答のような楽曲だともいえる。アルバムには約6分46秒におよぶバージョンが収録されているが、同日にリリースされたシングルではA、B面で2つのパートに分けられ、しかもアルバムとは別のアレンジとなっている。

1. 頬に夜の灯 (1982)

1982年のアルバム「LIGHT’N UP」の収録曲でシングルカットもされていないのだが、いまや吉田美奈子、そしてシティ・ポップというサブジャンルを代表する名曲の1つとして知られている。「灯ともし頃ならば 街もはなやいで」と歌われるのだが、この「灯ともし頃」という表現をあまり聞いたことがない。しかし、意味はなんとなく分かるし、この曲においてはこれしかないだろうという感じでもある。シティ・ポップ的な気分をあらわす表現としてライト&メロウがあるように思えるが、この曲はまさにそれでありながら内容もものすごく濃いという素晴らしいものになっている。デヴィッド・サンボーンによるサックスも最高である。