ダウ90000のコントと映画「花束みたいな恋をした」

「M-1グランプリ2001」の感想のようなものは書いていないのだが、もちろん大会としてとても楽しめた。錦鯉もオズワルドもランジャタイもおもしろかった。結成15年目でラストイヤーにして、敗者復活戦を勝ち上がり、通算4度目の決勝進出を果たしたハライチの岩井勇気はスピッツ「名前をつけてやる」のTシャツを着ていた。

例年によって何百本も公開される予選動画からすべて視聴するという楽しみ方をしていたのだが、準決勝戦のライブビューイングは開催されなかった。そんな中、個人的に最大の収穫は予選動画でダウ90000というグループを発見したことであった。1本の動画で3組分が公開される1回戦を多摩モノレールの車中で視聴していたのだが、男性1名に女性4名というメンバー構成からして、登場の時点でキワモノ的な印象を受けた。しかし、そのネタがとても好ましく、特にいまどきの若者っぽい会話を見事にお笑いに落とし込んでいる点が素晴らしいと感じた。次に見た予選動画では、女性メンバー達がパーソナルカラーで自己紹介をするということをやっていて、これもとても良いと感じた。若々しさにサブカルテイストのようなものを感じたりするのだが、変にひねくれていないというのか、大衆的なエンターテインメントをも志向しているようにも感じられ、そこに好感を持ったのであった。

気になって調べていくうちに、このダウ90000というグループは男性4名と女性4名の計8名によって構成されていて、普段は演劇をやっているのだが、「M-1グランプリ2021」には知名度を上げるために出演したということであった。コントの動画もいくつかYouTubeに上がっていたので視聴してみたところ、とてもおもしろく、気分が多いものが多く、ニセモーニングルーティーンといった企画や、女性メンバー達がモテそうなプレイリストを発表するような動画まで視聴してしまった。メンバーの1人が泰葉「フライデイ・チャイナタウン」を挙げていて、個人的な推しメンである道上珠妃も反応していたのでおっと思ったのだが、その後、よく知らないいまどきのアーティストの曲を挙げていて安心した。

いつしかダウ90000の「いつかパンダとコントを」というYouTubeチャンネルをチャンネル登録し、新しい動画が上がる度に視聴するようになっているのだが、少し前に上がった「ピーク」というコントは特に良かった。いままで見た中では、個人的な推しメンである道上珠妃のコメディエンヌとしての才能が爆発しまくっている「驚かない」というコントの次に好きかもしれない。

この「ピーク」というコントは本当に素晴らしく、ネタバレするのも勿体なさすぎるので、詳細について書くことはしないのだが、どうやら映画「花束みたいな恋をした」に言及しているようである。また、「天竺鼠のライブ行かないのおかしいよな」「クロノスタシスって知ってる?」というようなセリフがあり、ここでちゃんと笑いが起きているところも良いなと感じた。しかし、ここでなぜそのセリフなのかについては、はっきりと認識できていなかった。「天竺鼠」は吉本興業に所属するお笑いコンビ、「クロノスタシス」は日本のロックバンド、きのこ帝国の代表曲であり、いずれも個人的に好ましく思っているものである。

「花束みたいな恋をした」という映画については、明大前や調布などがロケ地として登場する作品であることはなんとなく認識していた。いずれも個人的にひじょうに親しみがわき、思い入れも強い地域である。しかし、この映画に対してはタイトルからして、おそらく女子中高生ぐらいの人たちが見て楽しめるようなタイプの作品なのではないかというような偏見がうっすらとあったため、なかなか見ようという気にはなっていなかった。しかし、ダウ90000がコントのネタに取り上げているぐらいなので、もしかすると自分のような者が見ても楽しめるのかもしれない。天竺鼠や「クロノスタシス」は関係があるのだろうか。U-NEXTで視聴することができるのは、なんとなく知っていた。

それで、晴れた日曜の午後、またしてもダウ90000の「ピーク」というコント動画を見ていて、やはり「花束みたいな恋をした」は見ておくべきなのではないか、と感じた。単純に自分がよく知っている場所が出てくる映画は、おそらくある程度は楽しめる可能性があるような気もするし、これを見ることによって「ピーク」というコントがより楽しめるようになるのなら、それだけでも価値があるのではないかと思ったりもした。それで結局、視聴したわけだが、これが驚異的に良かったのである。

それもそのはずであり、後から調べたところによると、この映画は公開された2021年には興行収入ランキングの1位を何週も続けていたり、様々な賞を受賞していたりと、かなり幅広く熱烈に支持されていたようなのである。ほとんど予備知識がない状態で見はじめたのだが、主人公の女性の方はNHK連続テレビ小説「あまちゃん」で小泉今日子の若かりし頃を演じてブレイクした有村架純であろうということはなんとなく分かった。日本の役者やタレントについては恐ろしいほどに何も知らなすぎるため、主人公の男性については、おそらくとても人気のある若手俳優なのだろうが、名前はまったく分からなかった。後で調べてみたところ、菅田将暉というおそらくひじょうに人気が高く、私のようなものでも名前ぐらいは知っているレベルの人だったことを知って、かなりちゃんとしたメジャーな作品だったのだな、ということが分かった。

現在の自分からしてみるとかなり世代も違う、いまどきの若者の恋愛をテーマにした作品ではあるのだが、いかにもいまどきというようなところもありながら、そこで描かれた内容については、わりと身につまされるというか、かさぶたを剥がすような快感をともなう痛みのようなものも感じられて、いつかの自分を重ね合わせて見ていたりするようなところもあった。そして、自分自身がそのような渦中にいた頃に、まさに調布市内で過ごしていたこともあって、個人的にもとても味わい深い作品でもあった。そして、個人的にはひじょうに日常的な地域でもある、明大前や調布といった場所が映画だとこんなふうに映るのか、という感動があるのと同時に、この街でもまるで映画のような様々な人生のストーリーがいろいろと展開されているのもまた事実である、という気分にもなった。菅田将暉と有村架純というのはもちろん美男美女には違いはないのだが、その演技力などによって、あたかもナチュラルに一般的にいそうな普通の若者に見せかけることにも成功しているようにも思える。

また、特に映画の前半において、知り合ってからそれほど時間が経っていない2人は、おそらく作家や漫画家の名前であろう、様々な固有名詞によってコミュニケーションを取る。そのほとんどについて、個人的には知らないのだが、若かりし頃、確かにそのようにしてコミュニケーションを取っていた記憶はある。それらは、ある意味において自分自身や他人のパーソナリティーを構成する重要な要素でもあり、それゆえに新しく知り合った人がどのような本を読み、レコードを聴いているかなどはとても重要であった。そして、部屋を初めて訪ねた時には、本棚とレコード棚がやはり気になり、その内容によって、より親しみを感じたり、もっと深く知り合いたいと感じたりもした。

そして、若者らしくできれば好きなことのプロとして生きていけたら良いと感じているし、やりたくもないことはできればやりたくないと思っているのだが、それが現実の前に少しずつ負けていき、変わっていく感じ、そして、そもそもはじまった当初においてそこが良かったのだが、変わっていくこちによって終わりに向かっていく関係性のようなものが驚異的なリアリティーと生々しさによって、しかし、優しくスタイリッシュに描かれていたりもして、そこにグッときたりもしたのであった。対比的に、いわゆる広告代理店的な価値観であったり、コリドー街や港区女子的な概念が出てきたりもするのだが、そういった意味で調布の郊外に住んでいるという事実がカウンター的なアティテュードとして機能しているようにも感じられる。世間一般的にはすでにじゅうぶんにメジャーな作品ではあるのだろうが、とにかくとても良いものを見たなという気分でいっぱいである。