ティーンエイジ・ファンクラブ「バンドワゴネスク」について。

ティーンエイジ・ファンクラブの3作目のアルバム「バンドワゴネスク」は1991年11月4日にイギリス、19日にアメリカでリリースされた。年末にわりと近い時期に発売されたにもかかわらず、イギリスの「NME」では年間ベスト・アルバムの2位、アメリカの「SPIN」ではなんと1位に選ばれていた。「NME」で1位、「SPIN」で2位に選ばれていたのは、ニルヴァーナ「ネヴァーマインド」である。ちなみにイギリスの「メロディー・メイカー」ではプライマル・スクリーム「スクリーマデリカ」、アメリカの「ローリング・ストーン」ではR.E.M.「アウト・オブ・タイム」が、それぞれ年間ベスト・アルバムの1位に選ばれていた。

これ以外ではマイ・ブラッディ・ヴァレンタイン「ラヴレス」、ア・トライブ・コールド・クエスト「ロウ・エンド・セオリー」、マッシヴ・アタック「ブルー・ラインズ」といった、ポップ・ミュージック史上重要とされているアルバムの数々が、この年にはリリースされていた。

これらに比べると、「バンドワゴネスク」はそれほどイノヴェイティヴだったりエポックメイキングだったりはそれほどしないような気もするのだが、それでもこのアルバムが素晴らしいのは、とにかく曲と演奏と歌がとても良いという、きわめてシンプルかつ語彙力に欠ける理由によるものである。

1曲目の「ザ・コンセプト」はこのアルバムからの先行シングルとしてリリースされ、全英シングル・チャートで最高51位を記録していたのだが、歌詞にイギリスのロック・バンド、ステイタス・クォーが出てくるし、どこへ行くにもデニムを身につけている女性が登場したり、ギターソロやハーモニーが特徴的だったりもする。しかも、曲が6分以上とやや長めである。これらの要素というのはクラシック・ロック的というのか、パンク/ニュー・ウェイヴ的な感覚とは相反するようなところもあり、それまで一度も好きではなかったというタイプの音楽ファンもいたのではないかと思われるのだが、そこには偏見や先入観のようなものがあったりもするわけであり、クリエイション・レコーズのインディー・ロック・バンドという入口とポップなジャケットアートワークに安心して軽い気持ちで聴きはじめたところ、その素晴らしさに気づかされたりもする。

ビッグ・スターというアメリカのロック・バンドが1970年代に活動していて、当時はほとんど売れなかったのだが、後に評価されるということがあったようである。ビッグ・スターが発表したオリジナルアルバムは3枚あったのだが、ティーンエイジ・ファンクラブはビッグ・スターに影響を受けているともいわれていて、「バンドワゴネスク」はビッグ・スターの4枚目のアルバムなどともいわれていたようだ。その後、ビッグ・スターは一部のメンバーで再結成するのだが、「メロディー・メイカー」が掲載したビッグ・スターの曲ベスト10のリストでは、10位になぜか「バンドワゴネスク」に収録された「ディセンバー」が選ばれていた。

インパクトのあるジャケットアートワークは、ピンク色の背景に「$」のマークが入った黄色い袋のイラストが描かれたものであった。キッスのジーン・シモンズがこれをトレードマーク化していたらしく、レーベルに抗議があったので、小切手を送って解決をするということがあったようである。